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7.気紛れ ページ7

あの夜から、私は海を訪れてはフロイドを探すようになった。


彼は気紛れに会いに来てくれた。
会えない日は、決まって木の橋に綺麗な珊瑚の欠片や、色鮮やかな海の植物などが置いてあった。
だから決して寂しくはなく、むしろ気分屋な彼が少しでも気遣ってくれているのだと思うだけで、とても愛おしく思えた。


私は今日も決まって海へ向かい、彼の背中を見つける。
橋に身を預け、空を見上げていた人魚の姿は美しく、夜景に映ていた。
そしてこちらへ気付くなり、柔らかく笑って陽気な声を上げる。


「待ってたよ〜。いつもよく飽きないね」


「だって、楽しいもの」


「ふ〜ん?まあ、オレも面白ぇからいいけど。」


そう言って、私たちは海へと視線を向けた。
彼のいる世界は、途方もなく広がっていて煌びやかなものだ。
月で照らされた青白い光が、海面を滑る。


「死んだら、人ってどこに行くの?」


彼が、静かに零した何気ない質問だった。
私は彼の顔を見つめるが、当の本人は海の向こうの、更に遠くを見据えている。


「どうしたの、急に」


「いや、だって気になんねぇの?」


気にならない訳ではなかった。
ただ、気にしないようにしていた。
間近に迫った恐怖を直視するのは、私には非常に耐え難いことだったから。


「…天に昇るって言うけど」


「空に行くってこと?」


「そうだね、星になるって言うくらいだし」


「ふ〜ん、更に遠くなっちゃうね。ヤだな〜。」


「遠くはならないよ、空は海みたいなものだから。」


「ナニソレ」


「だってほら」


私は海面を指さす。
そこには宇宙のごとく広がる夜空が海面へ映し出されていた。


「例え、私が空へ行ったとしても、こうやって見れば同じ所にいるように見えるでしょ」


フロイドは暫く私の指した方向をじっと見つめた。


その横顔に私は言葉を続ける。


「私、空を泳ぐのが夢だったの。」


その言葉に、フロイドは瞳を輝かせて顔を上げる。


「じゃあ、俺と同じ人魚だね」


「そうね」


私は、いつしか人魚になる。
海へと来れなくなる。彼に会えなくなる。


フロイドは、私に(そら)を教えてくれた。
退屈で色のない私の日々に、魔法を掛けてくれた。


そんな彼に、あえなくなる。


いつしかベッドから身を起こすのも困難になった時、私は彼にどう別れを伝えたら良いのだろうか。

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鳴海 ひまり(プロフ) - 美月さん» ありがとうございます!短命で若くして命を落としている人って、心が綺麗な方が多いので言葉遣いや感受性も美しいものなのではないかと考えて、主人公目線は出来るだけ綺麗な言葉や表現を心がけて書いております。細かい所まで汲み取って頂けて嬉しい限りです(*^^*) (2020年11月10日 18時) (レス) id: 72afd98018 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - させていただきました。ひとつひとつの言葉選びから情景描写まで何もかもが美しく、素敵な小説だと感じます。今後の展開がとても楽しみです。どうかご無理なさらず更新頑張ってください。連投失礼いたしました。 (2020年11月10日 4時) (レス) id: 48104f3cfe (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - 第2話より、『水面には月と無数の星が浮かんで……塗り替えた』という表現が深く心に刺さりまして、この感動をどう伝えていいのやら先程からうんうんと唸っております(;_;)とにかくとても素敵なフレーズでして、その文を読んだ瞬間に衝動的にお気に入りに追加 (2020年11月10日 4時) (レス) id: 48104f3cfe (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鳴海 ひまり | 作成日時:2020年11月10日 3時

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