15. 君心 ページ15
「僕さぁ、君のこと好きだよ」
「ありがとうございます」
僕が本気で言っているのにAちゃんは気付いていないのか、いつも綺麗に笑って返すだけだった。
そりゃ、普段の自分の行動のせいだとは分かっているけれど、これでもAちゃんに惚れてからのここ最近はそういったことも控えているつもりだ。
控えているというのは、彼女自身遊女であるから、僕が彼女のいる店に遊びに行かなければ会うことさえできないということだ。
「本当に好きなんだけどなぁ……」
ふと口に出しながら空を見上げる。
地獄の空はどこまでも黒く、見つめているとこの暗い闇に吸い込まれていきそうで、視線を元の位置に戻した。
これまでなら、こんな空でも悠々と飛べた筈なのに、地面から少しでも離れたらあの空に存在さえも吸収されてしまいそうで。
いつから僕はこんなに憶病者になったんだろう。
今では好きな子にさえ本気でぶつかること怖くて、冗談交じりのトーンで言ってしまうようになった。
先ほどまでふらついていた足取りがしっかりとなったような気がして、僕は今までいたあの場所へ向かう。
「あら、白澤様。またお越しになったの」
不思議そうな顔をしている店主に、
「Aちゃんをお願い!」
と言うと、もっとおかしな顔をしながら「分かりました」と対応した。
そして通された部屋の中には大きな輪をなして咲く花のような彼女の姿があった。
「Aちゃん、今から本気の話をするから、聞いてね」
いつもの綺麗な笑顔を浮かべながら顔をこちらに向けているAちゃんを見つめて、
「本当にAちゃんのことが好きなんだ。今すぐには無理だけど、もしよかったら僕とここを出ませんか?」
遊女と一緒に暮らそうと思えば、まず遊女を店から出さなければならない。
そのためには多額のお金が必要になる。
だけどそんなことは関係ない。
彼女との生活を送れるのなら安いものだ。
「本当なんですね?」
うかがうように大きな目で僕を見据える。
「私も、白澤様のことが好きです。ここから必ず出してくださいね?」
綺麗な涙を流しながら、くしゃっと笑った。
ああ、あの綺麗な笑顔を見るよりもこの表情が見たかったんだ。
「も、もう一回好きって言ってよ」
僕も涙を流しながら頼んだ。
「好きです。白澤様のことが、この世で一番好きです」
この日から、僕は臆病者から卒業した。
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ラーミン。(プロフ) - 手品玉さん» ありがとうございます!期待にお応えできるように努力していきます! (2015年8月10日 17時) (レス) id: 99f7bb834b (このIDを非表示/違反報告)
手品玉(プロフ) - ラーミン。さん» それでも待ってます!頑張ってください! (2015年8月10日 13時) (レス) id: bbcea6223d (このIDを非表示/違反報告)
ラーミン。(プロフ) - 手品玉さん» 返事が遅れてしまい、すみません…。そうですね!それを考えていませんでした!これからはそうします!ですが、ネタがあまり思いつかないので、できるだけ更新しますが、毎日とはいかないかもしれません… (2015年8月10日 0時) (レス) id: 99f7bb834b (このIDを非表示/違反報告)
手品玉(プロフ) - ラーミン。さん» しばらく更新しないんですか...余計なお世話ですが、占ツクのアプリはお使いにならないのですか? (2015年8月4日 10時) (レス) id: bbcea6223d (このIDを非表示/違反報告)
ラーミン。(プロフ) - 手品玉さん» 前作でも今作でもコメントしてくださり、ありがとうございます!そうですか…!ではこれからもそう言っていただけるように頑張っていきます!! (2015年6月6日 23時) (レス) id: 9562c1173e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ラーミン | 作成日時:2015年3月29日 1時