白椿【ars/S.S】 (ページ6)

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『あぁ。そんなんじゃないよ、ただ……』

「ただなんだよ」

『あの人は先輩なんだけど、このままバイトで良いのかなって2人で話してたの』

「じゃあ探せよ。現状維持、向上心がないから見つかんないんだろ」

『そんな言い方……』

「バイトが悪いとか、フリーターが悪いなんて言わねぇけどさ、もうちょっと真剣に将来のこと考えろよ。何のために偏差値高い大学通ってんだよ」

『ごめんなさい……』

「頼むよマジで」

『……はい』

まぁ、こんな感じの内容で

俺の中では基本的に言い合いや喧嘩の理由は、会えない事によるコミュニケーション不足だと思っていたから

もっと前みたいに密にならなければと、必死になっていた。

最近は、初めは違う事なのに、いつの間にか就活を諦めたことに繋がって、それに対して怒られることが多くなった。

私も引け目を感じてるから、余計にそう思ってるだけかもしれないけどね。

言い訳なのは分かってるけど、仕事内容に対して、これといった条件があるわけじゃないし

だからって、最初狙ってた商社とか広告代理店はことごとく落ちたし

大学院には進学はするつもりもないし……。

自分の人生なのに、本当に優柔不断で困る。

そんな私に、翔さんは少しプライドが高いから

自分の彼女が大手企業に勤められないことに対して、軽い苛立ちを感じているに違いない。

それが痛いほど伝わる時があるから、胸が苦しくなる。

好きだから、翔さんに見合った人間になりたいと思えば思うほど

自分に取り柄がないことを思い知らされて、劣等感に苛まれる。

必死に踠いて、翔さんに好かれようと努力すればするほど空回ってる。

就活もうまくいかないから、どんどん自信がなくなって

翔さんの足手纏いにしかなってない気がして、悲しくなる。

こんな気持ち、良くないよなぁ……。

「なぁ、A」

『ん？』

「今度さ、旅行に行かないか？海外」

『え？どうして？』

「どうしてというか……ほら。最近あんまり2人の時間が取れてないじゃん。短いけど休み取れるように頑張るからさ。な？」

『うん！楽しみ』

付き合って初めての海外旅行を提案されて、さっき翔さんから言われたことで

胸がチクってなったのを、隠すように笑顔で返した。

本当に最近2人でのんびり過ごせることが少なかったし

翔さんと一緒に行けるなんて嬉しいし、楽しみなのは嘘じゃないから。