白椿【ars/S.S】 (ページ41)

今日:6 hit、昨日:1 hit、合計:98,473 hit

41 ページ41

まぁ、キャップを目深に被り、眼鏡をかけていたから……と思いたいところ。

Aと付き合っていた頃はほとんどかけなかったからね。

『んっふふ、少し太ったんじゃない？焼肉とラーメンと……それから、お酒ばっかりなの？顔、浮腫んでる』

少し落ち込んだ俺をよそに、笑ってそう聞いてきた。

久しぶりに俺に向けられた笑顔が、全然変わってない。

可愛くて、可愛くて、俺が10年前に見た、別れてからもずっと見たかった笑顔だったから

胸が締め付けられて言葉を返す前に、思わず涙が頬を伝った。

『え？なんで泣くの？』

「いや……やっと会えたと思って。ずっと会いたかった。ずっとAを探してた」

涙を隠したくて、Aを思いっきり抱きしめた。

あの頃より、少し痩せた印象を受けたけど、感触は変わりなくて

匂いも変わってなくて、首筋に顔を押し付けて、静かに泣いた。

大好きで、大好きで

忘れようと努力しても、忘れられなくて

探しても見つからなくて、諦めた矢先の再会。

「マジでずっと……ずっと会いたかった……やっと見つけたぁ……」

『ふふ、あーあ。見つけられちゃったなぁ』

俺が言葉を詰まらせて言うのに、どこか楽しそうに言う。

まるで、長い長いかくれんぼをしていたみたい。

そう言いながら、背中にAの細い腕が回ってきたと思ったらそっと引き離された。

『翔さんも泣くのね？ドライなイメージだったけど。年取って涙脆くなった？』

そうかもなと涙を吹きながら答えた。

『どこのホテルに泊まってるの？』

「ん。プノンペンのホテル」

『私はそこのマンション！ご飯食べて帰るところなの』

指差す先はまぁまぁ立派なマンションだった。

外国人向けだから、セキュリティもしっかりしてそうだ。

『久しぶりに会えて良かった』

「俺も。なのにだっさ。泣いちゃって」

『貴重な翔さんが見られた！じゃあ……観光楽しんで？私明日も仕事だから、帰るね？』

えっ？

こいつ俺と10年ぶりに会ったのに、本気で帰ろうとしてる？

この感動的で、運命的な再会をもっと味わうとかないわけ？

いや、元カレと元カノの関係だけど、俺は好きだし！

Aが好きじゃなくても、俺は好きだし！

「何時から？どこで？何の仕事してんの？」

『8:30から小学校で日本語の先生だけど。何で？』

「せっかく会ったのにこれだけじゃ寂しくね？」

『んー。まぁ。そう、かもね』