白椿【ars/S.S】 (ページ39)

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＊「せんせー！あそぼー！」

『いいよ！教科書置いてくるね！』

カンボジアの小学校で日本語の先生をして10年。

毎日本当に充実していて、大変なことの方が多いけど、楽しい。

子どもたちは純粋で可愛くて、とっても元気で

校庭で鬼ごっこに縄跳び、かくれんぼ。

毎日のように駆り出されてヘトヘト。

でもその疲れさえ、生きてるって感じがして、嬉しく感じていた。

＊「せんせ、よる、なにたべる～？」

片言の日本語で話しかけてくれるのも可愛くて(笑)

『なに食べようかなぁ。作るのたいへんだから、どこかに食べに行こうかな！』

＊「よる、きをつけてね！」

『うん、ありがとう』

仕事で疲れた身体で、プノンペン市内の馴染みのお店に向かう。

カンボジアの家庭料理のこじんまりとして、奥まった所のお店で、美味しいのはもちろん

店主のお母さんもすごく優しいから、大好きで週2くらいで食べにくるお店。

ドアを開けると、恰幅の良いお母さんがお出迎え。

「おかえり、A。いつもの？」

『ただいまー。いつものお願いします。お腹空いた！』

「あー！また痩せた？たくさん食べなきゃだめよ？先生は体力勝負なんだから」

そう言って、大きな口を開けて大笑いするお母さん。

お父さんに注文を通して、ビールをサービスしてくれた。

いつも通りおいしいご飯を食べ終えて、ビールも飲んだから、ほろ酔いで川沿いを歩く。

家に帰るまでの、大好きなお散歩コース。

見慣れた街並みも最初は何にも分からなくて怖かったなぁとか

ルームメイトたちと探検したっけとか色々思い出して、頬が緩んだ。

紫色の空に浮かぶ月が綺麗だなーって空を見上げる。

深呼吸をすれば、住み慣れてはいるけど、異国の匂いを鼻腔に感じた。

プノンペンの川沿いの繁華街を散策。

しばらく歩いていたら、川沿いに女性が一人立って空を見上げているのが見えた。

現地の人だろうか。

ここは外国人も多いから、どこかの国の人だろうか。

スリが多いのに女性一人で危なくないんだろうか。

お節介に色々思いつつも、薄暗いから顔までは分からないけど

とにかく美人な雰囲気を、これでもかと漂わせているように俺には伝わってきていた。

川を見ながらこちらの方に歩いてくる。

肩までの黒髪を夜風に靡かせ、伏し目がちに柵を指でなぞる姿は、すげー色っぽい。

目元は妖艶で、知らない女性のはずなのに心を奪われそうになった。