白椿【ars/S.S】 (ページ33)

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何故なら、そんなことはないと分かってはいる。

分かってはいるが、思い掛けず出逢えるかもしれないという

微かな希望をまだ捨て切れないからだ。

まぁこの通り、どれだけ時が経とうとも、気持ちも凪いだとは言え、ずっと引きずっているし

見事に典型的未練たらたら男に成り下がったままだ。

Aを忘れなければと、何かアクションを起こすけど

それはやっぱりAを忘れられないからやっていることで……。

時間が経てば経つほど、Aとの思い出や過ごした時間は美化されていって

あぁ……会いてぇなぁ……
何してんのかな
どこにいんのかな
俺のことまだ好きでいてくれてたら良いなぁ

とか、淡い期待を寄せたようなことを徐に想うんだよなー。

だから男の方が引きずるというのは、あながち間違いではないらしい。

それゆえ必然的に、少しはAも俺のことをそこまではいかなくても

想っていてくれたら良いなと烏滸がましく思うわけ。

だって、喧嘩別れじゃないし。

少なくとも俺はめっちゃ好きな状態で別れたんだし！

そして今日はいつもよりAを想う時間が長い。

夕方から大学全体の同窓会があるからだ。

来ないだろうと思ってるよ？

思ってるけど、なんか新たな情報が得られるかも知んないじゃん。

だから淡い期待を胸に、ちょっと良い服を着て、遅れて会場に入ると

ありがたいことに黄色い歓声を浴びせてくれた。

それらをよそ行きのアイドルスマイルで躱しつつ、友達に駆け寄る。

＊「相変わらず人気で(笑)」

「嵐だからだろ。そうじゃなかったらこんなことにはならない」

軽口をたたきあったあと、最近会えてなかったから、近況報告をしあった。

Aと別れてからも、これといって変化のない俺の生活。

生放送の報道番組

何本か溜めて撮るバラエティのレギュラー番組の撮影

コンサートの打ち合わせ

歌収録

ラップを作ったり

1人で外食したり

こうして同窓会なり、飲み会なりで友達に会って、たわいもない会話をする。

でも、基本的にはスタジオから家に帰るという、たいして面白くないルーティンだ。

＊「おい。ともちゃん来てるぞ？聞いてきてやろうか、Aちゃんの近況」

しばらくすると。隣にいたやつがともちゃんを指差す。

楽しそうに話していて、久しぶりに会った彼女が大人っぽくなっているのを見て

Aも大人っぽくなったんだろうなと勝手に想像した。