白椿【ars/S.S】 (ページ16)

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家事もやれと言ったことはないけど、暗黙の了解で、やってもらっていたことは否めないし……。

Aが以前

タダで住まわせてもらってるんだから、これくらいは当然でしょ？翔さん知ってる？タダより高いものないんだよ？

なんて言ってたから、その言葉に甘えて過ぎていたのは紛れもなく事実。

「じゃあ家事は分担にしよう？な？だから……！」

『ねぇ、翔さん』

「なに……？」

『最後のわがまま聞いて？……別れてください。お願いします。だからこの先、同棲は無理。家事を分担とかの問題じゃないの分かってるでしょ？頭のいい翔さんなら』

意味は分かるけど、分かったけど……！

端的に言われ過ぎて、Aの気持ちが別れに繋がってしまった経緯が全く解せない。

そんな俺をよそに、もう一度、けどやっぱりこちらを見ないまま、はっきりしたその単語と

Aの変わらない意志に、俺は今度こそ何も言えなくなった。

自分の食器を片付けたAは

俺を横切ると、家に置いてある自分の荷物をキャリーケースに詰め始めた。

「なぁ、俺に悪かったところがあるなら直すから。それに別れようって言ってそんなすぐ出て行かなくても良くね？俺、まだこの状況に納得いってないんだけど」

小さな背中に、問いかける。

『翔さんは何も悪くないよ。私が不器用で、考えが子どもだっただけ。出てくよ。私の家じゃないし、別れ話した後に同じベッドで寝るの気まずいし』

「そんなことない。A？ねぇ、A。俺さ、いつになるか分かんないけど、実はAと年取るまで一緒にいたいなとか思っててさ……」

最後の最後で、望みがまだあるんじゃないかと、往生際が悪いの承知

女々しさ大爆発で、必死にAを繋ぎ止めようとするけど

荷物をまとめる手は止めてくれそうにない。

どうやらAの気持ちは揺るがないらしい。

優柔不断だけど、悩んだ分だけ本気の答えだから

一度決めたことは、絶対に変えない頑固さがAのいいとこでもあるんだが

今回はその頑固さが俺を苦しめている。

『ありがとう。でもごめんね？その願いは叶えてあげられなさそう』

そう言って、やっと俺を見てくれたと思ったら、今度は少し微笑みながら大粒な涙を流していた。

その涙があまりに綺麗で、思わず近寄って頬に手を伸ばす。