白椿【ars/S.S】 (ページ17)

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「何でAの中で別れるって答えになったのか、ちゃんと教えてくれ。じゃないと別れてやれない。Aはずっと前から思ってたのかも知れないけど、今日の今日で俺は結論は出せないし、出したくない。頼むよ。俺はAが好きなんだよ。別れて欲しいって言われてもね」

涙を拭ってやりながら、普段あまり口にしないAへの気持ちを溢しても

首は横に振り続けられた。

「何でAが泣くんだよ。言いたくないだけで、本当は他に理由があるんじゃないのか？」

『……翔さん。わかって？お願いします』

そう言いながら頭を下げたAを強く抱きしめた。

華奢で、柔らかなその身体は泣いているから小刻みに震えていて

Aに告白した時もこんな感じだったな

あん時のAの顔、めちゃくちゃ驚いてて可愛かったな、なんて不覚にも思ってしまった。

「今日はもう遅いから、泊まってけよ。な？危ないから」

『……タクシー拾うから良いよ』

「じゃあ、Aのわがまま聞いてやるから、俺のわがままも聞いて。な？今から風呂に一緒に入ろう。それから隙間なんてないくらいに抱きしめあって眠ろう。おはようを言って、朝ごはんを食べよう。直接言いたくないなら、電話でも手紙でもいいから。ちゃんとAの気持ちとか、考えをゆっくり聞かせて欲しい。で、ちゃんと俺が納得したら、この部屋を出ていってもいいから」

『……はい』

荷物を詰める手を止めて……というか、ほとんど荷物がないから

すでに出ていく準備万端になってしまっていた。

「とりあえず今日はパジャマは俺のシャツ貸すから。そのまま洗濯機に入れといて。俺が洗う。というか、洗濯機が乾燥までしてくれるから(笑)」

『ん、ありがとうございます。お風呂沸かすね』

風呂の準備をしてくれている間、とりあえずAが作ってくれたものを食べようとリビングに戻り、口に運ぶ。

さっきまで温かかったそれらは、冷たくなっていて、まるで俺に気がなくなった今のAの心みたいだった。

その後、俺のわがままで、一緒に風呂に入った。

身体を洗いあって、くすぐったいね、なんて言いながら。

湯船でAを後ろから抱きしめて、首筋に鼻を押しつけたら

同じシャンプーも同じボディーソープも使ってるのに、甘ったるい香りがして

この匂いももうすぐ無くなるのかと思ったら

目の奥がツンと痛くなって、うっかり泣きそうになったから、強く抱きしめ直して誤魔化した。