-イナGO- 私は小さな猫を愛した。 -狩屋マサキ-

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人混みを通り抜け、式場に入ると空調のおかげか暖かな空気に包まれた。

捕まると厄介だから、と顔を軽く伏せながら進んでいく。ただ、地図の通りにひたすら。

指示されている場所は結構奥で、進めば進むほど人の声が遠くなっていくのを感じる。


白を基調とした内部、複雑な道を作り上げる壁は美しい風景画や静物画が飾られていた。

道の端では、豪華な生花が台の上でお辞儀してたり、いかにも、という人形も置いてある。

足音をなるべく立てないように歩くが、それも中々に長いこの式場は疲れてくる。


が、道には終わりってものが来るものだ。ずっと見続けていた地図の道が途切れている。

顔を上げ、ふと右のほうを向くと【新婦】と書かれたプレートが取り付けられた大きなドア。


ここだ。声にはしなかったが、思わず心の中で叫ぶ。と、同時に固唾を呑んだ。

運がいいのか、ドアは微かに開いていた。きっとスタッフが出て締め切らなかったのだろう。

入ろうか、でも入るほどの勇気はない。俺はそっとその隙間から中の様子を伺った。



見えたのは、真っ白い肌に重なる細かいレースが特徴的なウェディングドレスを着て座った貴方。

少し赤く色づいた頬に、色とりどりの花で縁どり作られた、薄く輝くベール。

ぼうっと遠くを見つめる新緑の瞳は、照明も手伝ってか一段と輝いて見えた。


... ...綺麗だ。息を潜めるどころが、止めてしまうくらいに目を奪われるほど。

やっぱりあの人は美人だ、って再認識する。勿論外見だけじゃ言わない、中身を知ってこそだ。

それでいて、やっぱり自分の手に余るものなんだ、ともまた気づかされる。


真っ赤な髪も、綺麗な緑の瞳も、細くて白い手足も


その優しい声も、愛も。


おどけてヘリウムを吸った風船の如く、無感情に遠い遠い空へと飛んでいく。



もっと俺が大きければ届きそうなのに、無残にもあの人の元へ消えていく。




「誰か...いる、？」



どんっ、と胸部を思いっきり叩かれたかのように心臓が跳ねた。Aさんがこちらを見ている。

何でバレたのかは分からない。音の出るようなものはないし、動いてすらいないのに。


「...マサキ、君...マサキ君...だよね？」

あの時と変わらない薄紅の唇。Aさんは席を立ち、ドアまで来ると快く開けてくれた。


「ああ...来てくれたんだね、嬉しい...！」

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