お返事 ページ42
弱く揺れた愛しい唇からは、まさに自身のものである名前が漏れた。思わず息を呑む。
美しい緑の瞳はまだ定かでないものの、しっかりと俺を見つめてくれている。
ずっと欲しかった、自分にだけ向けてくれるその瞳。
自分が言葉にする前に、頬に生温い感覚がほろりと落ちていった。ハッとして右手で拭う。
そっと手を下ろすと、微かに手が涙で濡れていた。微量ながら、確かな熱のある涙。
視線をAへと戻す。驚いたような顔をしていたが、視線が合うとくすぐったそうに笑った。
「...A」
「なぁに？」
緑は俺を見つめている。大きくも丸くて、柔らかな色。ずっと前から好きだった色。
「...ありがとう、信じてくれて」
「...ありがと、その言葉が聞けるようにしてくれて」
ひとしきり言い終わると、お互いに笑った。そのやりとりさえ、幸福だったから。
ゆっくりと減速していくように笑うのをやめ、Aは両腕を俺に向けて伸ばした。
「ねえ、身体起こして」
「大丈夫なのか」
「ちゃんとお礼がしたいんだよ」
相変わらず変なところで生真面目だな、そう思いながら立ち上がり、Aの両肩を持つ。
少しでも力を分散させるためにもっと背中の方へ腕を回そう、と屈んで肩口に顔を近づける。
と、右耳に柔らかな感触を一瞬感じ、驚きを隠せずベッドから離れた。
「な、何するんだよ！」
「お礼だってば」
耳に触れたのは、紛れもないAの唇だ。だんだんと耳から顔へと火照りが広がってくる。
にやにやと笑うAは待ってました、と言わんばかりに俺の反応を待ち続けている。
きっと鏡を見たら、絵の具の赤で顔を塗りつぶしたような色になってるんだろうな...
「術前はプロポーズだってしてくれたのになぁ」
「お前なぁ...言い方悪いけど、卑怯だぞ」
「ね、ならもう一回プロポーズしてよ」
赤い髪が誘惑するようにベッドの上を泳ぐ。それこそまさに鉢で泳ぐ金魚のように。
もう一言言ってやろうか、と思ったが、彼女の羨望に勝てないのがいつものパターンだ。
再度ベッドに近づき、床に膝をついて横になったままのAと視線を合わせる。
何故あの時は恥ずかしくなかったんだろう、そう思いながら口を開いた。
「大好きだ、A。愛してる」
「うん」
「ずっと俺の傍にいてほしい、支えて欲しい」
「...うん」
「...結婚、してくれるか？」
「...こちらこそ、よろしくね」
静かに笑ったAの瞳からは、涙がこぼれた。
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夜月桜 - な、泣ける。・゜・(ノД`)・゜・。 小説でこんなに感動したことないです(>_<) (2017年3月29日 20時) (
レス) id: 889de71093 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» こちらこそよろしくお願いします！よろしかったら他作品もよろしくお願い致します。 (2015年1月3日 20時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - よろしくお願いします! 更新頑張ってください!! (2015年1月3日 16時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» コメントありがとうございます！もうすぐラストなので、この雰囲気を保ちつつ納得がいくエンドをかけるよう頑張りたいです。更新も張り切りますので今後もよろしくお願い致します。 (2015年1月2日 15時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - すごく良かったです!読んでるとき涙がでてきてもう大変でした笑 更新待ってます＾＾ (2015年1月2日 15時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：佐奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/e2e95d529a1/
作成日時：2014年9月20日 20時
