涙 ページ34
ヒロトさんと廊下を抜けて、子供の声が煩い居間とリビングに出た。
園の子供らは食後の風呂が済んだのか、騒ぐ奴と眠たそうにしている奴らに分かれている。
「ご飯、食べるでしょ」
温めるから、と言ってキッチンに入ると、冷蔵庫から俺の分であろう食事を取り出していた。
おそらく瞳子さん達は、お風呂や寝かしつけに行っているんだろう。
「なんで円堂監督に連絡したんですか?」
「ただの保険さ」
あった方がいいだけ。そう言われなくても、どこかわかっていた。
ぶーん、とレンジの音が離れていても聞こえる。
きっとこの人には、今日の結果は言わずともバレるんだろうな。
悔しい、というよりは[情けない]と思ってしまう。それくらい、まだ喉に突っかかってた。
「一生突っかかったままだろうね」
どきっ、とするのと同時にレンジからピーッ、と甲高い音が聞こえた。
まさかそこまで見抜かれるとは、と胸元を押さえつけるように自分を落ち着かせる。
一方のヒロトさんは、冷静に温まった食事を俺に差し出した。
「俺もそうだから」
リビングにある長テーブルの上に置こうと歩き、下ろしてからヒロトさんを確認する。
「諦めたんですか」
「諦めたさ、血液ってそういうものだよ」
憂いを帯びた表情だったが、不思議と同情も哀れみもない。
本当に、あったことをただ言い連ねているだけ。
「食べたらお風呂に入って寝なよ。明日は、Aが手術する日だ。」
返事も待たずに、またヒロトさんは背中を見せていなくなった。
... ...少し、夢を見すぎていたのだろうか。ぼんやりとした気分で椅子に座り込む。
【明日で、Aとは[さようなら]なんだから。】
そう言いたそうにしていたような、気もする。
ああ、何であの人はあんなに綺麗なんだろう。何でこんなに鋭利なんだろう。
触れただけなのに、大きな傷を作って、癒してもくれない。
...触った罪、だろうか。
「いただきます」
しっかりと両手を合わせてから、箸をしっかりと持って食事を口に運ぶ。
不意に、Aさんと料理したことを思い出した。
[さーマサキ君、次は卵混ぜるのも手伝ってもらおうか]
爽快に笑うAさん、くらりと眩むような顔を覆う熱、皮膚を通して感じた幸せ。
... ...ぽたり、と茶碗の隣に涙がいつの間にか落ちた。
声は出せない、貫くような痛みもない。
それなのに、何でまるで望んでいたかのように、こんなに出るんだろうか。
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夜月桜 - な、泣ける。・゜・(ノД`)・゜・。 小説でこんなに感動したことないです(>_<) (2017年3月29日 20時) (レス) id: 889de71093 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» こちらこそよろしくお願いします!よろしかったら他作品もよろしくお願い致します。 (2015年1月3日 20時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - よろしくお願いします! 更新頑張ってください!! (2015年1月3日 16時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» コメントありがとうございます!もうすぐラストなので、この雰囲気を保ちつつ納得がいくエンドをかけるよう頑張りたいです。更新も張り切りますので今後もよろしくお願い致します。 (2015年1月2日 15時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - すごく良かったです!読んでるとき涙がでてきてもう大変でした笑 更新待ってます^^ (2015年1月2日 15時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:佐奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/e2e95d529a1/
作成日時:2014年9月20日 20時