毒と痛みと愛情と。【死柄木弔】

これから��。(弔side) ページ39

オペは終了、と言われて帰ってきた。
黒霧に俺の部屋へと俺を飛ばすよう命じる。

「……」

俺はさっきの手術のことを思い出していた。

邪魔だと言って上着を脱ぐ業。
座る俺の目の前にアイツの上半身。
近づいた時、女独特の、ふわりと立ち昇る香りに、一瞬目眩がして、それで……

黒いタンクトップはアイツの美しさを隠したりはしなかった。
白い肌に、血色のいい頰。綺麗な形をした胸。
薄く広がる桃色の唇。指通りのいい赤色の髪。
そして、歪んだ狂気に輝く紫色の瞳。

全てが魅力的だ。
そんなのは俺でもわかる。

だけど俺はいけないんだ。
アイツには溺れることはいけないんだ。

「……」

自分の癖のついた灰色の髪の毛に触れる。
アイツが触れたこの俺の髪の毛。
針で俺の腕を縫うと、顔を寄せてきた業。
殺菌はしてあるから、と笑う顔。


誰にも気づかれはしなかったはずだが、あの瞬間、俺は確かに、ゴクリ、と唾を飲み込んだ。
惹き込まれるような妖艶な色っぽさに、抗おうとしてのことだった。

俺が？こんな餓鬼に？

確かに雰囲気は餓鬼っぽくないと俺が言った。
それでもそれは餓鬼と比べての話で、俺が実際に16の餓鬼に…

「クソっ…ふざけんな、そんなわけ…！」

首に爪を立てる。

あの時目がいったのは胸元。
俺にそんな欲があるとは思えない。
信じたくもない。
女なんか必要ないとも思ってる。

アイツはただの駒だ。
使えるただの駒。

主従関係が成り立って初めて機能する。
俺がアイツに少しでも隙を見せた時点でそれは崩壊する。

時折見せる"女"の表情、イカれた愛情表現。
愛と忠誠を誓われた時から、アイツは俺に対して「好き」という言葉を隠さなくなった。

おいおいおい、まだ2週間ちょっとだぜ？

だけど俺も初日からあんなことしてたんだがな。

「…っ」

初日のアレを思い出す。
理性の切れたような行動に吐き気がする。
あの胸が詰まるような感情は、どうも理解できないんだ。

「俺…アイツのこと…」

『弔』

モニターから先生の声がして、現実に引き戻される。

「何だよ、先生…」

『今何を考えていた？』

「何って…」

何でもないよ、先生。

そう言うことはできず、ぐ、と喉の奥で詰まる。

『弔、彼女は君にゾッコンだね、もっともっと君に溺れさせて、そうだな…色仕掛けでもして君無しでは生きていけない、そのようにしたらいいだろう』

いや、そのようにするべきだ。
そう念を押す先生。

「…やればいいんだろ」

不本意ながらも言った。

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