【歌い手】夢のようで、夢じゃない。

story.6／熱い ページ7

「ありがとうございましたー」


買い物を終え、二人で外に出る。


「クーラーでちょっと冷えちゃいました」


あはは、と苦笑いする。
外の生ぬるい風が心地よい。


「冷えた時は人肌が一番だよ？」

「…えっ」


突然そう言われ、ともくんに手を握られる。
…あったかい。


「ほら、あったかいでしょ？」


えへへ、と笑うともくん。


(それ以前に私の心臓がもたないって！)


頬が熱くなる。
ドキドキが止まらない。
…こりゃ効果的な温め方ですわ。


「…あったかい、です」


やっぱり、ともくんはずるい。
そう確信した。


「じゃ、行こっか」

「え」


すると、手を繋いだままともくんが歩きだした。


(やっぱり心臓もたないよ…！！)


恋人繋ぎではないとはいえ、ファンとアーティストの関係でこんなことをしてもいいのか疑問だ。
…とはいえ、手をつないでいたいという気持ちもあって。
とりあえず、突っ込まないことにした。


「えーっと、家どっち？」

「右です」

「僕も右！」


果たして本当にそうなのだろうか。
ファン如きに軽々と個人情報を教えていいものなのか。


「あ、送ってくよ」

「わ、悪いですって！」

「女の子がこんな夜遅くに一人で出歩いてちゃダメでしょ？」


ともくんはまるで子供のように頬を膨らませた。


(…可愛すぎかよ)


「…そ、それじゃあ、お言葉に甘えて」

「うんっ」


それから、少しの沈黙が続く。
…なんとなく、まだ繋がれた手に意識が行ってしまう。


「…っ」

「どうしたの？」

「なんでもない、です」


あなたのせいです、なんて言えるわけがない。
けど、きっとバレてる。そんな予感しかしない。

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