page16「要らない優しさ」 ページ24
さっきの話が頭にこびりついて、離れない。離れようとしない。
私は自分が思っているよりも大事な話を聞いたに違いない。だけど、なんだか私の心は満たされない。
____どうして?
厭、その答えは何処かで分かっているのかもしれない。そしてそのまた何処かで拒絶しているのかもしれない。
でもそんなこと言い出したらキリがない。
今さっき、前に進もうと決めたばかりのくせに何弱気なことを言ってるんだ。
自分自身を咎めてもいまいち、自分に姉がいたなんて実感は湧かないし、懐かしささえもない。
姉の姿が目に浮かぶなんてこともなく、思い出せるような見込みが出てくるわけではなかった。
罪悪感と嫌悪感が胸をじわじわと支配していく。
そんなことを知る由もなく、淡々と検査が終わりへと向かっていく。
すると、看護師さんが優しい声で私に話しかけた。
「記憶のことを気にしてる?」
ただその一言が、私の考えすべてを見抜いたように感じて、大きく胸が鳴る。
その言葉に小さく頷くと、看護師の人はまた人懐っこい笑顔を浮かべて私にこう言った。
「もういっそ開き直って、新しい人生に進んでみたらどう?過去に辛いこともあればそりゃ嬉しかったこともあると思うよ。
でも、過去に縛られて生きることもきっと辛いことになると思うよ」
気にさせないように、気を遣って。
励ますように、手を握って笑う。
____違う
でも、それは違うんだ。
私だけ、一人だけ、楽なほうへ楽なほうへ進むわけにはいかない。
____今の私も、前の私も、全部ひっくるめて私だ。
「…私だけ、笑って前へ進むことなんてできないよ」
看護師さんが私の手を握る手を優しく払う。
それに対して、驚いたような悲しそうな顔で私を見る目の前の看護師の人。
____辛いものも、嬉しいものも全部背負って今まで来たんだ。
「前へ進むなら…笑うなら、みんなと一緒がいい」
ただそれだけ。
逃げも、怯えも全部取り払った私の願いは、こんな大きな我儘、ただそれだけ。
____どうしても、ダメだっていうなら
____どうしても、無理だってなるなら
____どうしても……思い出せないなら
____もう一度、あの日の出来事を繰り返させてください。
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雨中と猫。(プロフ) - ちょこさん» うわああああんすみませえええええんがんばります (2022年2月10日 2時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2021年12月20日 22時) (レス) @page49 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - いちごポテトよーぐるとさん» 返信が遅くなりすみません!めちゃくちゃ嬉しいです、現在別作品「笑えないって」リメイク更新中ですのでもう暫くお待ち下さい!! (2021年12月9日 18時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
いちごポテトよーぐると(プロフ) - 色々な感情で涙が……とても面白かったです…。更新待ってます、! (2021年8月17日 0時) (レス) id: 33ba1212be (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - 眠夢_さん» うわああああありがとうございます!!今メインで書いている「笑えないって」という小説のリメイクを行っていてそちらが落ち着き次第こちらも更新しようと考えております!絶対完結はさせますので何卒ー!! (2021年8月13日 3時) (レス) id: 6b41ff11b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨中と猫。 | 作成日時:2017年4月29日 2時