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---クシナsaid
「今日は随分早く来たねアヤノちゃん」
テウチさんにそう言われて、私は時間を間違えたと嘘をついた。
腕にはナルトを抱いた温もりが、掌には夫に似たチクチクとした髪の感触がまだ残っていた。
偶然あの光景を見て、ついかっとなって飛び出してしまった。しかも口癖まで…
ナルトに嘘をついて、就業時間より早く一楽に来た理由は1つ。ナルトに会って、触れて、母としての感情が溢れてしまったから。火影様の言い付けを破りそうになったから。だから急いでナルトから離れた。
ある雨の日、お昼の忙しい時間帯が終わり、私は店の奥で食器や調理場の清掃と整理をしていた。
「アヤノちゃん!タオル何枚か持ってきてくれ!」
この雨だ。きっとお客さんが濡れてやってきたのだろう。私は慌てて真っ白なタオルを持ってカウンターに向かった。
「拭いてやって!」
テウチさんはそう言って、ラーメン作りに取り掛かった。
カウンターの前にはナルトがいて、目が合うとその目はきらりと光った。
ナルトに触れれば、押し殺していた感情が再び溢れだした。でも私は、雨ですっかり冷えきったこの子を抱き締めてあげることすら出来ないのだ。
「アヤノちゃん、今日はもう上がんな。ついでにナルトを送ってくれないか?」
この雨で人は来る気配もなく、ナルトは傘を持っていなくて、折角服が乾いてきたのに帰るに帰れない状況だった。私は「分かりました」と、言葉を返した。
「また来な!」
私が帰り支度を済ませ、ナルトと一緒に暖簾を潜るときにテウチさんがニッと白い歯を見せながら言った。ナルトは小さくに頭を縦に降り、私と同じ傘に入った。
何を話せばいいのか分からなくて、口を開いたら余計な事を言いそうで、私たちは雨音に包まれながら足を進めた。
---ぎゅぅっ
小さな手が私の手を掴んだ。
頭では分かっていても、私がその手を振り払える訳がなくて、逆にその手を私は無意識のうちに握り返していた。
ナルトは家の前で足を止めたけれど、握った手を中々離そうとはしなかった。声をかけようとしたとき、ナルトは俯いていた顔を私に向けた。
「また行ってもいいってば…?」
口が勝手に動いていた。
「勿論よ!いつでもいらっしゃい」
微笑みながらそう言うと、ナルトはぱぁっと太陽の様な笑みを浮かべ、家へ駆けて行った。
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作者名:きゃおる | 作成日時:2022年9月25日 22時