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Aが目覚めたのは、その数日後だった。
重い瞼に覆われていた青い瞳と目が合うと、ワシの視界はじわりとにじんだ。
『ぱ、ぱ……』
目覚めたばかりだからか、舌足らずな言葉でワシを呼んだ。安心して息を吐く間もなくAは言った。
『…ミナトさん、は…?
クシナ、さんは……?』
ぴしりとワシの表情が凍りついた。
何も言うことができなかった。嘘を伝えれば、Aは確実に壊れてしまう。しかし、真実を伝えることは出来ない。仮に真実を伝えたとしても、Aの反応は同じな気がした。
ワシはAを強く抱き締めた。いや、それしかできなかった。
Aは勘が良い。始めはじっとしていたものの、何かを悟り、次には体を小刻みに震えさせ、最後には泣き叫び、暴れだした。
蹴られても、殴られてもワシはAを離さず、ただ黙って抱き締め続けた。会わせて会わせてと泣きながら言うAの声が頭の中にガンガンと響き、締め付けるような痛みが胸に走った。
結局、泣きつかれてAは眠りについた。
そんな日が暫く続いた。その日もまた泣きつかれてAが眠った頃、ジジイがワシらのいる病室に入ってきた。
「特別に許可が下りた。
Aも一応関係者だからのォ」
それから少し言葉を交わしたあと、ジジイは「お主も少しはゆっくり休め」と言って病室を出ていった。
Aのことで頭が一杯で、Aが目覚めたあとも、こうしてほとんど眠らずにAを看ていたと、ジジイは気づいたようだった。
次の日、ワシはAに全てを話した。
今まで話せなかった理由も、幼いAが理解できるように説明した。それから、絶対に誰かに話してはいけないと、強く言った。
だが、「昏睡状態の末、永遠に目覚めなくなる可能性がある」という事は伝えなかった。
今のAに、この真実は打ち明けられない。受け止めることができないと、思ったからだ。
もう1つの理由はあるが。
ワシはそんなAの頭をグシャグシャと乱暴に撫でた。
「安心しろ。
あいつらはそんなヤワじゃあねェ」
それから言った。
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作者名:きゃおる | 作成日時:2022年9月25日 22時