Fall. (ページ38)

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38 Little killer. ページ38

｢ルッペルか。今月は遅かったね。｣
郊外の路地の奥。
普通の人はなかなか訪れないそこにある。
彼いわく、並大抵の恨み辛みの人には
来て欲しくないそうだ。
その事務所の中に、彼は鎮座している。
そこに、王の素質を感じる私は、
ただ彼にかしずくことしかできないのだ。
私は、ひと月に1度彼の元を訪れている。
こんな職業だが
まずまず食べられているようで、
事務所の内装もなかなか手が込んでいる。
彼の職業は、殺し屋である。
当然法にかかる仕事だ。
彼が反対に傷を負ったこともある。

とはいえ、
彼はこの仕事を辞めるつもりはないらしい。
彼は自らの正しさを証明するために、
この仕事を選んだのだから。
彼は、自らの父親の殺しの依頼が
舞い込んでくるのを待っている。
彼の父ーつまり若様ーは、
自分以外にも恨まれているに違いない。
そう思った彼は、この仕事を志した。
また、当時の彼は、若様に抗う力がなかった。
その苛立ちを、彼は知っている。
無力な人が泣き寝入りするしかない
悔しさを代わりに晴らす……。
それが、彼の目的のひとつでもあるらしい。

私は、そんな彼を褒めるつもりは毛頭ない。
彼がしているのは、ただの代償行為だ。
空しいだけ。
しかし、彼は満たされている。
その行為が自分にとって何なのか、
彼は分かっているのだろう。

｢本日は、お仕事にご同行させて
頂いてもよろしいですか？｣
若様に命ぜられましたので、
と言いかけるのをこらえ、彼の反応を窺った。
彼は片眉を心持ち上げたものの、
了承してくれた。

｢足を引っ張らないでくれよ。｣
そう言うと、彼はしなやかな動きで
屋根へと上った。
私も続こうとしたが、片足が不自由なので、
諦めた。
仕方なく、彼に引き上げてもらい、
小さく舌打ちのおまけも貰った。
彼は音を立てないように屋根を伝い、
オペラハウスを目指す。
私もできるだけそれに続き、
彼の成長ぶりに目を細めた。

オペラハウスに着くと、
彼は、ここで待機しているように、
と私に言った。
彼は、普段から正装を好み、
仕事中は素顔を見られては困るため、
仮面をしている。
その裏ではどんな顔をしているのだろう。
と、彼の背中を追っているうちに、
彼はターゲットと思われる男を路地裏へと
誘った。
そして、音もなく背中を一突きにすると、
脈をとり、死体を横たわらせた。
彼は路地裏からまた私のところまで
上ってきて、満足か？
と聞いた。

私は、素直に、はい、
と答えた。