18 ページ18
·
___また或る日の、仕事終わりの夜
隠し事がなくなったことで吹っ切れたのだろうか
ううん、どちらかと云えば、開き直ったって表現の方が合っているかもしれない
「よお、A」
「……こんばんは」
偶然ばったり、なんて思えなかった
だって私の行く道の先に、待つようにして佇む彼のその瞳が、確かに私を捕らえているのを見たら
熱の溶けた青い目とかち合えば、視線の逸らし方なんて忘れてしまう
「私を待ってたんですか」
「俺が待つのは手前だけだ」
やっぱり
マフィアの幹部であることを開き直って、きっとその全権力を駆使して、私を追跡でもしたのだろう
___彼は、本気なんだ
「……素敵な口説き文句ですね」
「手前が落ちてくれなきゃ意味ねえけどな」
彼は云わば、このヨコハマの夜を具現化したような人なのに、どうしてと思うほど真っ直ぐな声音
「中原さんには、私じゃなくても他に」
「___おい、ふざけんなよ」
本当に、真っ直ぐな
「俺が手前を好きなことに、異議は認めねえぞ」
そんなの、思わず息を呑んでしまうじゃないですか
中原さんのそういうところ、本当、反則だと思う
と、何も云い返せないでいると、いつの間にかそばに来ていた中原さんが私の手を取って
「俺が誰を好きでいるかは俺が決める」
「……そう、ですか」
「おう、覚悟しろって云ったろ?」
云いながら中原さんは、言葉の割には優しく笑って私を見つめた
それから彼は、立ち話も何だ、と
「何処か
口調では提案しつつ、ぎゅっと握られた手
香ったあの香水と少しの煙草が私を誘って、彼の外套が揺れて、歩み出そうと革靴が音を立てる
私の足も、つられて、行きそうになった
「……A?」
けれど、連れて行かれそうになる手を、自分の方へと引き寄せ返して、それを拒んで
すると、中原さんが振り返って
私は代わりに、今度は中原さんの手をこちらから握り返して、そのまま声を零した
「珈琲なら、うちで飲みませんか」
目線は中原さんから外してあったので、今、彼がどんな顔をしてるのか判らないまま
少し経って、「良いのか」と寄越された返事に、こくりと頷いて答える
そんな私の視界に、ふと彼のもう片方の手が映ったかと思えば
「急に可愛いこと云うんじゃねえよ、くそ」
私の頭を撫でて、そう呟き捨てた
·
782人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
楓(プロフ) - 完結おめでとうございます!鼻血が出過ぎてぶっ倒れる所でした(笑) 推し尊い…… (2019年4月3日 0時) (レス) id: 381002261f (このIDを非表示/違反報告)
まめ(プロフ) - 完結おめでとうございます!キュンキュンが止まりませんでした。ありがとうございます! (2019年4月2日 16時) (レス) id: 4d7fcc5e30 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 完結おめでとうございます。いいお話でした。 (2019年4月2日 15時) (レス) id: 1bfa3e637e (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - 更新されてる?( ☆∀☆) (2019年2月9日 10時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
紅葉 - あぁ、、、推し(中也)が尊い、、、 (2019年2月9日 9時) (レス) id: c6be9b3184 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ