やさしい食卓二。【SS】 (ページ1)

今日:3 hit、昨日:4 hit、合計:217,365 hit

三十一。ギブ＆テイクページ1

『俺、人間関係ってギブ＆テイクだと思うの』

彼はそう話し出す。

『思いを与え合って、相手が“大切な存在だ” っていう感情が生まれて』

『そういう人には、何だってしてあげたいと思う “ギブ” になって』

『そしてその気持ちがきちんと伝われば、それはきっと “テイク” になって返ってくる。人間関係ってそういうもので』

ゆっくり、言葉を選んで、彼は続ける。

『それはビジネスはもちろん、恋愛でも言えることだと思うんだよね』

『一緒にいて楽しい、心地良い、安らぐ』

『そんなテイクが相手からあるから、自分も相手にギブしたいという思いが生まれる訳で』

『だからこそ、一方通行じゃ成立しない』

『誰もがそんな相手を探して日々を生きてるって、そう思うんだけどさ』

.

『時々何故か、“そんな相手は自分には現れないんじゃないか” って』

『そう、やりきれない気持ちになることがあって』

『悪く言えば選び過ぎ、慎重になり過ぎなんだろうけど』

きっと、誰の目にも非の打ち所がないように写る彼は
その分弱さを差し出せる場所が無くて、孤独なのかもしれない

だからその気持ちを理解してくれる、誰よりも “本当に大切だと思える人” を求めて

『でも、一生を共に歩んでいく人を選ぶことって、そんなに簡単な事じゃないと思うんだ』

日々を、葛藤しているのかもしれない

『形はどうあれいつか終わりが来るかもしれなくて、永遠なんて現実は何処にもないってそう言ってしまったらお終いなんだけど』

きっと、誤解されやすいのだろう

.

この人はあまりに賢すぎるから

『でも、そんなの寂しすぎるじゃん？』

.

私の反応を確かめるように見上げる。

『俺は、永遠に限りなく近いものを一緒に作れる相手を探したくて』

『だから……目一杯、仕事頑張って来た』

その言葉の後に、もう一度手元へ視線を戻した彼は

『まずは世の中をキチンと知らないと。大切な人、守れないからね』

そう言ってもう一度、私の作ったお吸い物に口を付けた。

『…でも、きっとそれは、相手から理解されないと意味ないんだろうな』

『ちょっと、仕事ばっかりやりすぎたかな』

何か思い出すように、そう呟いた。