やさしい食卓二。【SS】 (ページ2)

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三十二。どうしようもなく【翔】ページ2

別に、アイツの事を引きずっている訳じゃない。

寧ろ、もし仮に今

麻里奈とヨリを戻せるかと聞かれたら、答えは迷い無く “NO” だ。

求めるだけじゃ成り立たない、恋愛や結婚ってそういうもので。

“私たちの未来は、何処にあるの？”

俺たちには

互いを理解しようとする気持ちと、その努力が

きっと足りていなかった。

.

『……私、』

ここまでずっと俺の話に耳を傾けていたAさんが、初めて口を開いた。

『東京って、孤独な人で溢れかえっていると思うんです』

彼女はそう言った。

『ここは、至る所から夢や才能を持った人たちが集まる場所でもあって』

『そういう人たちはみんな、周りのパワーや、一人で努力して闘っている孤独に負けないように気を張って生きていて』

『だけど勿論、ずっと気張り続けていたらエンジンが切れてしまう』

…今日の彼女は、淡い桜色の着物だ。

『私はここが、そういう人たちにとっての、心身の栄養補給場所であれたら良いな、と思うんです』

ああ…彼女の笑顔がこんなに優しいのは

『私にとって、祖母の料理がそうだったように』

『私の料理が、誰かの孤独を救えたら』

『そんなに嬉しいことは他に無いんです』

人一倍 “孤独” を知っているからなのかも知れない______

『今夜は、元気の無い顔をしていた櫻井さんを笑顔に出来るように、そう思いを込めて、この蛤のお吸い物を拵えました』

…ダメだ、今日は長い時間の酒で酔いが強い。

『自分が想いを寄せた人が、同じように自分に想いを寄せてくれることって、凄い奇跡ですよね』

『櫻井さん、“そんな相手は自分には現れないんじゃないか” っておっしゃったけど』

『私も時々、同じような事を考えるんです。“そんな奇跡が、私の身に起ころうか？” って』

もう、そろそろ良い具合にしておかないと。

そうしないと……

『いつか櫻井さんに見初められる人は、幸せだと思います。こんなに素敵な男性は、なかなかいないと思うから』

『だから、きっと大丈夫ですよ』

.

彼女の、どうしようもなく強い魅力に

気付いてしまうから_______