・ ページ27
.
それからというものの、特に進展どころか、私も緊張が勝ってしまってあまり接点がないまま過ごす事になった。私はというと、もっとナルミィちゃんに近づけるようにとスポーツを頑張ってみたり、すぐ疲弊してしまっていたから体力づくりから始めてみた。体の節々から感じていた筋肉痛とも程よく仲良くなれた。……と思う。勉強に関しては、元々得意なほうだったから、これ以上落とさないように気をつけながら授業に臨む。
ここまではいい。放課後の、一人になった教室でぼんやり考えた。
短くなった髪の毛にも慣れた。ドライヤーの時間も少なくなって、その分ストレッチの時間に充てたりすることもできたから、結果的に良かったかもしれない。ただ、積極性はなかなか矯正に至らなかった。私の勇気は、大きな挨拶１つで終わってしまったのだろうか。確かに思い返してみると、周りから声をかけてくれることが多くなったけど、自分から何かを提案することは少ない。
これでは本末転倒だ。トイフェルくんにアピールするため、まずは自分の見た目から、って思ったのに……。
自分の根っこをどうにかしないと、と大きくため息をついた。と同時に、教室の扉がガラリと開く。
「あっ……Aちゃん」
「っ！……トイ、フェルくん。こ、こんにちは」
「お、おう。」
入ってきたのは紛れもなく今頭の中の半分以上を占めていた、渦中の彼だった。急な邂逅に酷く驚き、トイフェルくんの名前を呼んだときなんて声がひっくり返ってしまった。
顔は赤くなってないだろうか。バッと上げた顔を少し伏せたタイミングで、そっと教室の扉を閉める音と、トイフェルくんがこちらに向かって歩いてくる音がほとんど同時に聞こえた。
「……え、えっと、どうしたの？なんか、忘れ物？」
「えっ？あ、あぁ！そ、そうやねん！うっかりしとったわ〜」
正直、教室に二人きりという事実に、緊張のせいもあって口が乾ききってしまっているんだけど、こんなチャンスない。いざ話しかけようとしても、会話がすぐに途切れてしまう。トイフェルくんもどこか、よそよそしい感じがして弾まない。せっかく変わろうと決めたのに、呼吸がうまくできなくて、口もうまく回らない。これじゃなにも、変わってない。
,
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 36人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：!! | 作成日時：2023年5月28日 12時
