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63話 ページ19

桜哉said



「あ、ナナちゃん遅ーい。」


「ごめんモモちゃん!」


楯野が、部活に来た。


さっきは、安田との関係を疑われてあれこれ聞かれている楯野から


何故か目を背けたくなって、半ば逃げ出すようにその場を去ってしまった。


「楯野、遅かったね。」


「なかなか解放してもらえなくってさ〜。でも、ちゃんと誤解は解いてきた!」


「そっか。」


ほら、楯野も誤解だと言っている。楯野は安田の事なんて何とも思ってないんだ。


「あ、菜々花先輩やっと来た!今日は遅かったっすね!」


「晴人君。」


安田が、飼い主にしっぽを振って甘える犬みたいに楯野めがけて駆けてきた。


「そうだ!僕、あのストレッチ出来るようになったんすよ!」


「え、体硬すぎて出来なかったやつ?出来るようになったの?」


「そうっす!褒めてください!」


「え〜!すごいじゃーん!」


その安田に嬉しそうな顔をして言葉を返す楯野を見たら、


「あれ、桜哉君どうしたの?」


「帰る。」


もう見たくない、この場にいたくない、という衝動が抑えられなかった。


「え、ちょっと待ってよ!何で急に・・・・・・。」


荷物を持つと、楯野の制止の声も聞かずに体育館のステージを飛び出した。





「・・・・・・馬鹿な事したなー。」


あんな風に飛び出した以上また部活に戻るわけにもいかず、校門を出て帰路につく。


頭では、楯野は1年生担当という仕事を全うしているだけだとわかってる。


でも、俺の目が、耳が、それを受け入れてくれないんだ。


2人が楽しそうにしているのを見る度に、楽しげな声を聞く度に、


楯野は俺なんかより安田といた方が良いんじゃないかと思ってしまう。


今が壊れるのが怖くて何も出来ない臆病者なんかより、


明るくて元気で物怖じしない人気者の方が、一緒にいて得だ。


楯野がそれに気づいてしまったら、あの笑顔が俺に向けられる事はもう無いんだろうな。


「──ぉわっ。」


物思いに耽っていたら、前からくる人に気づかずぶつかってしまったようだ。


「あ、すみません。」


「いえ、大丈・・・・・・あ。」


とりあえず謝ると、返ってきた女の声が途切れたので不思議に思い、声の主を確認する。


「・・・・・・あ。」

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作者名:鈴蘭姫 x他1人 | 作成日時:2017年3月19日 10時

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