検索窓
今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:3,487 hit

第2話 他人依存症(2) ページ4

「川越ってしっかりしてるよなー」

「あー川越さん?そうだね。そういや今日遅れるかもだって」

「珍しい」

「あれは本人のせいじゃないしなー......」



走る、走る。
廊下を遠慮なくひたすら走る。

ゼェハァ、と呼吸しながら部室の扉をあけた。

「遅れてすみません」

「そんなに走ってきたの?」

笑いながら先輩達は受け入れる。
遅れてるのだから走ってくるのは当然だ、というと、今度は苦笑いだ。

(嘘だ、本当は走りたくない)

(運動は苦手だ。制服のまま汗をかくようなことなんてなるべくしたくない)

(私のせいで遅れた訳じゃないのだから)

ーーでも、それ以上遅れないための努力をしてる方が、かっこいいでしょ?美しいでしょ?ーー

「お前は毎回どうしてそんなに気を張っちゃうのかなーたまには息抜けよ」

うんうん、とさっき廊下ですれ違った要先輩がわずかに頷く。

(貴方に認められるのが嬉しいなんて言えない)

だから、咄嗟に脊髄反射で半分嘘半分本当みたいな言葉を吐く。

「美しくあれないのなら、生きている意味がないんです」

彼らは驚いているようだったが、不味いことをいったわけではないらしく、私を責めたりはしなかった。

「あいつ......難しいな」

もう一人の先輩が、要先輩にそう呟いた。
仕方ない。わかるわけがない。

私の心は二つに分離している。

とても優しい綺麗な心と、合理を突き詰めた冷たい心。相容れることはないけれど、二つの心があることで私はいつでも自分を保っていられる。

(美しい心で生きられるならそれでいい)

尽くした分だけ返してほしい。私にも幸せを与えてほしい。

(見返りを求めてしまえばそれは合理的思考だから美しくないよ)

でも貴方(わたし)はずっとそうしていられはしないでしょ。無償のやさしさには限界がある。

(うん、だから私は貴方の存在を認めている。決して裏切らず、私の行いを忘れない貴方)



「川越ってしっかりしてるよなーどう育ったらあんな風になれるんだか」

「私、全然しっかりしてませんよ」

「(しかもちゃんと謙遜ー......)」

うん、私は全くしっかりしていない。
(うん、私は全くしっかりしていない。)

自分の中で救いを見出だしてくれる人を作るほどには弱かった。
(自分の中で救いを見出だしてくれる人を作るほどには弱かった。)

人は、論理や合理だけで生きていけるわけじゃないから。
(社会は、優しさや愛だけでは生きていけないから。)

私は延々、他人(わたし)に依存する。

第3話 アンチ・ビター(1)→←第2話 他人依存症(1)



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (6 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
3人がお気に入り
設定タグ:アンチ , 恋愛 , 小説   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:Sei | 作成日時:2017年6月17日 9時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。