第2話 他人依存症(2) ページ4
「川越ってしっかりしてるよなー」
「あー川越さん?そうだね。そういや今日遅れるかもだって」
「珍しい」
「あれは本人のせいじゃないしなー......」
*
走る、走る。
廊下を遠慮なくひたすら走る。
ゼェハァ、と呼吸しながら部室の扉をあけた。
「遅れてすみません」
「そんなに走ってきたの?」
笑いながら先輩達は受け入れる。
遅れてるのだから走ってくるのは当然だ、というと、今度は苦笑いだ。
(嘘だ、本当は走りたくない)
(運動は苦手だ。制服のまま汗をかくようなことなんてなるべくしたくない)
(私のせいで遅れた訳じゃないのだから)
ーーでも、それ以上遅れないための努力をしてる方が、かっこいいでしょ?美しいでしょ?ーー
「お前は毎回どうしてそんなに気を張っちゃうのかなーたまには息抜けよ」
うんうん、とさっき廊下ですれ違った要先輩がわずかに頷く。
(貴方に認められるのが嬉しいなんて言えない)
だから、咄嗟に脊髄反射で半分嘘半分本当みたいな言葉を吐く。
「美しくあれないのなら、生きている意味がないんです」
彼らは驚いているようだったが、不味いことをいったわけではないらしく、私を責めたりはしなかった。
「あいつ......難しいな」
もう一人の先輩が、要先輩にそう呟いた。
仕方ない。わかるわけがない。
私の心は二つに分離している。
とても優しい綺麗な心と、合理を突き詰めた冷たい心。相容れることはないけれど、二つの心があることで私はいつでも自分を保っていられる。
(美しい心で生きられるならそれでいい)
尽くした分だけ返してほしい。私にも幸せを与えてほしい。
(見返りを求めてしまえばそれは合理的思考だから美しくないよ)
でも貴方(わたし)はずっとそうしていられはしないでしょ。無償のやさしさには限界がある。
(うん、だから私は貴方の存在を認めている。決して裏切らず、私の行いを忘れない貴方)
*
「川越ってしっかりしてるよなーどう育ったらあんな風になれるんだか」
「私、全然しっかりしてませんよ」
「(しかもちゃんと謙遜ー......)」
うん、私は全くしっかりしていない。
(うん、私は全くしっかりしていない。)
自分の中で救いを見出だしてくれる人を作るほどには弱かった。
(自分の中で救いを見出だしてくれる人を作るほどには弱かった。)
人は、論理や合理だけで生きていけるわけじゃないから。
(社会は、優しさや愛だけでは生きていけないから。)
私は延々、他人(わたし)に依存する。
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作者名:Sei | 作成日時:2017年6月17日 9時