病気とは言わないで

医者と◯◯　４ ページ27

ここで働きながら、治療を受ける。

　人手不足だから君のような医者が欲しい。給料も出るし、タダでその病気の治療を受けることが出来る。という条件でどうだと知り合いに紹介され、二つ返事で了承した。

　そこであの人に出会った。

　彼は、どんな患者にも分け隔てなく平等に接し、どんなときにも側に寄り添い、必死で治療法を探した。

　私も例外ではなかった。

　彼のその優しさに触れ、病気は未だに治らないものの、私の心は救われた。それで十分だった。

　彼のようになりたい。いつしかそう思うようになった。

　患者の心を理解し、患者の立場で考え、共に歩む。それは簡単なようで、難しかった。

　あの少女のようなことがあってはならない、私はその一心で努力した。

　そして時は流れ現在。

　彼はもういない。この病院に医者は私一人だけとなった。

　そして、あの少女と同じ病気にかかった少女が現れた。

　『異常』であった私は、彼女にどこか惹かれるものを感じた。あのときの嫌悪感とは全く逆の感情。

　そして気がついた。これは『正常』に嫌われると同時に、『異常』を惹き付ける病気なのだと。

　これを伝えていいものだろうか？

　もうすでに彼女の心は傷付いている。またあの少女のように、病気が何か教えれば、さらに心を壊してしまうのではないかと、不安に襲われた。

　それを知って、彼女の周囲の『正常』な人間はそれを受け入れてくれるだろうか？

　どうせならここで、『異常』に囲まれ何も知らずにいた方が幸せではないのかとまで思ってしまった。

　それが怖くて、カルテにも書かなかったし、本人にも言わなかった。

　知ってしまったとき、彼女はどうするだろうか？

　またあの少女のように…………。

　その日１日の足取りは重かった。

柵を越えない羊を数える→←医者と◯◯　３

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す