病気とは言わないで

医者と◯◯　３ ページ26

白い廊下を、あてもなく歩く。

　彼女がなんの病気か私は知っていた。

　知っていて、彼女に伝えなかった。カルテにも書かなかった。

　書かなかった理由はただ一つ。存在して欲しくない病気だったから。

　学校でのいじめ、両親の態度。そういえば彼女を担当した職員もだ。

　そして、ジャックや他の患者。

　気のせいだと思いたかった。私の診断ミスだと。

　でも、はっきりしてしまった。

　「『正常』に嫌われ、『異常』に好かれる病気」

　２０年ほど前、同じ病気にかかった少女がいた。

　両親や信じた親友にすらも裏切られ、見捨てられ、少女の心はずたぼろだった。

　病気を伝えたとき、少女は嘆き悲しんだ。

　この病気さえなければ。と

　『正常』だった先輩の医者や世話をする看護師、そして私も少女に対してどうしようもない嫌悪感を抱き、必要最低限しか近付かなかった。

　だから、誰も少女を止められなかった。

　未だに窓の外を落ちていく少女の姿が脳裏に焼き付いている。

　そのときは正直いうと、これで厄介者がいなくなった。と喜んでしまった。

　それから数年後、奇病を患い『正常』でなくなってしまった私は、少女がどれだけ辛い思いをしたかその身をもって痛感した。

　嫌われ、疎まれ、虐げられ、裏切られ、見捨てられる。それがどれだけ辛く悲しいことか。

　絶望の淵に立たされ、どうしようもなくなり死を選ぼうとした。

　そんなときだった。今の病院で働かないかと声を掛けられたのは。

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