「また、明日」 ページ40
銀さんはピタッと動きを止め、遅れて「あぁ」と私から簪を奪った。
「じっとしてろよ」
「はい…」
ふわりと近付く銀さんの香り、温かくて太陽みたいな不思議な匂い。いつもこの香りを嗅ぐ度にドキドキもするが、安心もするのだ。この人が近くにいるんだという意味で。
「ん、似合うじゃねーか」
「本当ですか?」
「銀さん嘘言った事ねーし」
「それが嘘でしょう」
銀さんは「バレたか」と舌を出して笑った。私は「もう」と銀さんを小突く。それは…とても、とても穏やかな時間だった。
私と銀さんの間に明確な名前の付く関係性はない。友達ですか?と聞かれれば何と答えれば良いのか分からない。恋人ですか?と聞かれれば違う、と答える。
それは…何かいけない事なのだろうか。
私は銀さんが好きで、大好きだ。でも…そこから一歩先の特別な立ち位置に至りたいと我儘を思う訳ではない。
店員さんに運ばれてきたお茶を見つめて、私はぼんやりとそんな事を思っていた。
***
「もう春も近ェな」
帰り際、屯所の前まで送ってくれた銀さんがそうこぼす。この1年で銀さんとの思い出も随分と出来た。それが堪らなく私は嬉しかった。
急いで言う必要は無い。
まだ時間は沢山ある。
また明日だって会えるんだから。明日、気まずい思いで顔を合わせたくないから。だから、私は言わなかった。銀さんへの恋心を打ち明けずに一日を終えようとしていた。
私にとって1番大切なのは銀さんと一緒にお茶を飲みながら話す他愛ない会話と、時折私に向けてくれる優しい笑顔で。それだけでも本当に幸せで、十分過ぎるぐらいに幸せで。
(だから…怖いんです)
今ここで私が「好きです」と伝えて、その答えを聞く事が何よりも怖いのだ。
だって、明日も私達は同じように顔を突き合わせて話をして一緒にお茶を飲んで。続いてゆく関係に傷を付けたくないのだ。
私は心の中で銀さんへの想いに鍵を掛けた。うっかり「もっと一緒にいたい」なんて言ってしまわない内に帰ろうと銀さんの顔を見上げる。
私の目には蕾を付けたばかりの桜の木が映る、また銀さんと出会った春がすぐそこに迫っている。銀さんはいつもと寸分違わない間の抜けた顔で片手を上げた。
「また、明日」
.
.
.
_____そして。
この日を境に坂田銀時という男は、かぶき町から姿を消したのであった。
79人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - ダイスケさん» ありがとうございます!全力をかけて完結を目指したいと思いますね!! (2017年2月11日 19時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
ダイスケ(プロフ) - 月ヶ瀬ましろさん» これからも頑張ってください!!( ´ ▽ ` )ノ (2017年2月11日 18時) (レス) id: e508cab75b (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - ダイスケさん» コメントありがとうございます!わわ…お気に入りまで!お褒めに預かり光栄な限りです(´∀`*) (2017年2月11日 18時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
ダイスケ(プロフ) - すごく面白いです!お気に入り登録しました! (2017年2月11日 15時) (レス) id: e508cab75b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:月ヶ瀬ましろ | 作者ホームページ:http://twitter.com/hearty__smile
作成日時:2017年2月8日 21時