虎の娘《２》 (ページ37)

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Matsuda side

ふたりが出ていってから数分間楽屋にはなんとも言えない空気が流れた。

吉澤「…微笑ましいって言うべき？」

さっきのスタッフさんは事務所のタレントのスキャンダルの処理などを行っている人。

馴染みがあるわけではないけど俺らの中では有名でみんな知っている。

確かにその話題で呼ばれたなら微笑ましいと言えば微笑ましい。

でも、どこか嫉妬とは違うモヤモヤが残っていた。

どうでもいい勘ばかり当たってしまう俺はこの嫌な予感も的中してしまう。

しばらくしてみんなも次の仕事の準備をし始めていた時、楽屋には涙目のAちゃんがひとりで帰ってきた。

松田「…Aちゃん、？」

ドアの前で立ったまま自分の荷物なのかその隣の海人の荷物なのかどこかを見たままぼんやりしている。

心配になって声を掛けると俺と目が合った途端今まで見たことがないほどの勢いで泣き始めてついにしゃがみこんでしまった。

ちゃかですら驚いていたからこんな姿誰も見たことないんだと思う。

A 「…うみが、…うみ…」

上手く話すことすら出来なくなっているその様子でなんとなくのことは察した。

正直ちゃかに何度「タイミングが違えば元太も可能性はあった」と言われても本気で海人より勝っているなんて思ったことは無かった。

閑也からもしめからも「海人ほどAのことを大切にしている人は居ない」と何度も言われてきたから納得していたし信用していた。

絶対に海人だけはAちゃんのことを傷付けないと思っていた。

A 「…友達、多いって聞いてたけど…知ってたけど、そんなのじゃないって言ってたから……信用しちゃってた……」

ぽつりぽつりとそう言うAちゃんはいつもより何倍もか細く見えてこのまま居なくなってしまいそうで、思わずそばに行って抱きしめた。

A 「…元太はずっと俺の方がいいって言ってたのにね…、ごめんね」

抱きしめた手を握ってそう言うAちゃん。

数ヶ月前の俺ならこのまま弱みにつけ込んで海人から奪ってたんだと思う。

でも、ずっと大切にして誰も味方が居なくてもそばについてきたのは海人だと知っているからその言葉には何も言えなかった。