少しだけ ページ5
「えー……じゃあ、何から体験したいですか」
パートリーダーのゆみは先輩が、頭を掻きながら聞いてくる。
「な、何から……」
そう言われても、パーカッションに関しては来たくて来た訳では無い。
副部長に連れられて体験することになってしまっただけ。
……正直、体験したいものを聞かれても困る。
「Aさんいきなりパーカス連れてこられた感じくない？これ」
「私もそう思う。まあ未経験の子だと特にパーカスの魅力なんてわかんないよね〜？」
「じゃあこっちで選択肢用意してあげればいいか。このまま何もせず返すわけにいかんし。」
るなさんとゆみは先輩が何やら相談している。そこに、両手に持てるだけの小さな楽器たちを抱えたさなさんとうさだくんがやってきた。
うさだくんはさなさんに無理やり手伝わされたようで、気だるそうにしていた。
「一応初心者の子でも取っ付きやすそうな小物とかも持ってきましたけど、どうしましょうか？」
「小物より鍵盤やろ〜？Aちゃん女の子だし〜！私の後継者にするから！」
「ひらめは黙ってて！！Aちゃん、ドラムもあるよ？かっこいいよドラム！！私は出来ないけど……」
「雑魚じゃん」
「は……なんか言った鈴木？」
鍵盤というのは、向こうに見える鉄筋や木琴の事だろうか？ドラムは分かる。
皆が小物と呼ぶ楽器たちの中には、カスタネットやタンバリン、トライアングルもあった。
一人だけ会話に置いていかれ、おどおどしながらも、私は一番話の通じそうなゆみは先輩に言った。
「あの……じゃあ、ドラム、やってみたいです。」
小さな頃に、おもちゃの木琴などは触ったことがある。ピアノを習っていた時期もあったので、どうせやるなら少しも知らない楽器をやりたいと思った。
「じゃあここ、座って」
ゆみは先輩は、ドラムの前に置かれた小さな丸い椅子を指さす。
失礼します、と言いながら、私はそこに座った。
「あ、椅子の高さは大丈夫ですか？Aさん。」
すぐさま駆け寄ってきてせっせと準備をしてくれるさなさんを横目に、ゆみは先輩が申し訳なさそうに目を細めた。
「いやぁ、みんなうるさくてごめんな。うちいつもこんなんなんだよなぁ……」
「あ、気にしないでください……」
意外と、この中では常識的な人なのかもしれない。
他の人はともかく、ちゃんと話かけてくれるゆみは先輩や、にっこり笑いかけてくれるさなさんには、少しだけ、悪い気持ちも薄れていった。
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作者名：俺 x他1人 | 作成日時：2021年2月8日 10時
