第75話「勿体ないけど使っちゃおう」 ページ25
エシディシがジョセフと戦った時､血管針を張り巡らせたのは､ジョセフの糸の結界を破る為だったが､今は違う｡
私を逃さない為に張り巡らせたのだ｡
私の周囲はいつの間にか血管針に囲まれ逃げ場がない｡
後ろにも横にも行けない｡
「ジョジョの奴がさっき言っていたよ…勝利とは戦う前に既に決定しているのだとぉ…まさに､まさにまさにぃぃ!まさにジョジョの言う通ぉーりぃよなぁ!」
血管針が私に迫る｡零れだした血液が微妙に私の身体をかすめる｡
「今から全ての血管針を突き刺し!体中の穴という穴から俺の熱血を送り込みぃー!バースデーケーキの様に綺麗に火を灯して焼いてくれるぜぇ!」
ジョセフがこちらへ来ようとするのがチラリと見えた｡
「来るなよ!ジョジョ!」
エシディシから目を離さずに言い放つ｡
「絶望のぉー!引き攣り濁った悲鳴を聞かせてくれぇーユメー!」
「ふふふッ」
私は目を閉じ､口元に片手を当て笑い出す｡
「ふふふふッあはははは」
「なにィ!?俺に生死を掴まれているこんな時に笑みを…恐怖のあまり､気でも違ったかァ」
「あのねぇ…こうやって静かに目を閉じながらの笑みは勝利の笑みなの｡…エシディシ､貴方の敗因はやはり､二千年間､眠りこけていた事だと私は思うなぁ」
「敗因!?敗因だとぉー!!」
「おやぁ…分からない?貴方は私の心の中が分からない?そして貴方は既に自分が敗北している事が分からない?」
今度は目を開け､ふふふとまた笑みを零す｡
正直､周りにある血管針がキモいがここは我慢だ｡
「人間は､二千年間少しずつ進歩してきたという事だね｡つまらない事だけれど18世紀から19世紀にかけて手品や奇術も随分エンターテインメントとして発展したの｡……私ね､わりと好きなんだよ?……騙しの…手品がねぇ!!」
鞭を針の隙間に向け､思い切り振るう｡
エシディシの周りを生き物の様に血液が取り囲み凍っていく｡
「なっ!コレは!俺の血液!だが何故!確かにさっきぶちまけたが､貴様に凍らされた!溶けていたとしても下に落ちた血液は針の隙間の地面に染み込んでいるは」
エシディシが地面に目を向け､心底驚愕したという表情になる｡
「あらまぁ､気づいたかしらん?本当は勿体ないから使いたくなかったんだけど…ソレ…すっごいよねぇ防火と防水両方兼ね備えてるんだよ…流石に凍らせてない血液が高温すぎてわりと焦げたけど」
地面には針の隙間を縫うように､細長く切られたシートが敷かれていた｡
「素敵な殿方から頂いたの…ふふッ」
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作者名：夢書き | 作成日時：2018年8月18日 8時
