第33話「再び誓い合いましょう」 ページ33
「シィ…ザ…ァ」
私は俯いて噛み締める様に夫の名前を口にする。
「何?」
優しい問い掛けが上から降ってくる。
「…言って…」
シーザーの胸元に右手を当てる。
シャツの袖越しに熱い体温が伝わって来る。
私はゆっくりと目蓋を閉じた。
「「愛してる」って…言って…」
足りない。
幾ら求めても。
幾ら受け取っても。
もう満足なんて出来ない。
「他の愛の言葉でも構わない…溺れる程に、言って」
どうせ溺れるなら愛の海に溺れたい。
その事実があるのなら、苦悩と焦燥と悲哀の海でも溺れたりはしない。
そう思い込めるから。
「このまま…私に触れたまま言って。…離れないで…」
優しい。
優しい私の愛しい人。
「お願い…お願い…シーザーァ…」
私を_。
どうか私を_。
赦さないで下さい。
降り注ぐ愛の中、真っ当な言葉を返せない私に呆れて下さい。
嘘でもいいので愛を下さい。
ただ、酷い嘘は吐かないで。
もう一度でいいんです。
私に勇気を下さい。
少女には終わりが来るのです。
終わらせなければならないのです。
だからせめてもの慰めに手向けの花を下さい。
美しい花を下さい。
そして哀れんで。
でなければ消えてしまうから。
己を可哀想だと抱き締めなければ。
涙を流さなければ。
息が出来ないのです。
弱者だと嘲笑う者や、自己愛の権化だと怒鳴り散らす者も居るけれど。
そうしなければ「人間」である事を保てないのです。
「…グラッチェ。…シーザー」
「当然の事をしたまでさ…」
目蓋を持ち上げる。
少し視界が滲んでいた。
ふわりと石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。
シーザーの左手が私の右手に触れた。
優しく胸から離すと私の右手を自分の口元へ。
右手の甲へ口付けしたかと思うと、くるりと返して掌にもう一度口付けをしてくれた。
「ふふ…なんだかまたプロポーズされたみたい」
「今度は固まりはしなかったね」
私はシーザーにプロポーズされた際、あまりの事に脳がキャパオーバーを起こし固まった。
「…少しは…慣れたもの…」
「まだ全部は慣れてくれないのかな?」
「だって…」
__好きで好きで好きすぎて、その感情には何時まで経っても慣れないから。
頬に熱がいくのがよくわかる。
「そういえば…よく私なんかと数十年付き合ってるよね」
「…君だから、数十年共に居るんだよ」
「そっか。…うん……あ…あのね…シーザー。…私もね」
_貴方とだったから一緒に居られた。
私と唇と彼の唇が静かに重なり合った。
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作者名:夢書き | 作成日時:2019年1月4日 10時