第13話「冷たい石の上で」 ページ13
そういえば肝心な事を忘れていた｡
私は自身の両腕を眺める｡
蒼い薔薇を交えた白い葉と茨がすっと現れた｡
少しだけ安堵の息を吐く｡
もしスタンドがなかったらそれはそれで不安だ｡
「おい」
「ひょあッ」
いつの間にかカーズに顔を覗き込まれていた｡
「な…何」
「貴様も連れて来られたという事か」
「つ…連れて…?」
そこでなんとなくだが何か分かった｡
恐らくカーズも何かしらの影響で時の狭間へ来てしまったのだろう｡
「そ…そうなの!私も連れて来られたというか巻き込まれたというか!」
私がこれでもかと頷くと､途端にカーズは私から顔を離し虚空を眺めた｡
「俺の意識を…思考を目覚めさせた…あの小娘｡何を考えている」
私はそんなカーズをちらりと見る｡
なんだろう｡
怖いのも､あの殺気も､独特な雰囲気も当時のままだが､あの頃とは微妙に違う｡
宇宙空間で毒気が抜けたのか｡
なんて考えていた時だった｡
突然､何かが石の床に突き刺さった｡
金属的な音と､石の砕ける音が響く｡
「!」
私の2cm程横に1本のナイフがつき立っていた｡
一瞬どこかで見た事がある形状だと感じたが､今はそれどころではない｡
慌てて周囲を見渡すが人影すらない｡
所々折れた石柱達と石床と砕けた石壁､そこを風の音が冷たく響くだけだ｡
そしてカーズはいつ間にやら､1番高い石柱の上に居た｡
相変わらずえげつない身体能力である｡
カーズが何をじっと見ていたかと思うと右腕の刃を煌めかせ､石柱から飛び降りた｡
丁度､10m程はあろうかという石壁の残骸が邪魔をしてカーズの様子が見えない｡
「何か…見つけたのか?」
正直カーズが偶然にも､そのラスボスとやらを発見して始末してくれたら好都合なんだけどな＿と思ったり思わなかったり｡
そうすればカーズも戻れ＿いや､カーズにとっては悪夢の再来か｡
そういえば＿カーズの目的は＿一体｡
そんな事を呑気に考えていた矢先｡
無数のナイフが私目掛けて飛んで来た｡
「…ッ!?」
私は咄嗟にスタンドでそのナイフ達を薔薇の花に変えた｡
無数の蒼い薔薇が石床を埋め尽くす｡
敵が居る｡
それは明らかだが何処に居るのか分からない｡
「また妙な技を身につけたようだな…小娘」
「ひあッ」
気付けばカーズは戻って来ていた｡
「中々に美しいではないか」
カーズが月光に照らされた無数の蒼を眺めて愉悦の吐息をもらす｡
思わずほんの少しだけドキリとしたのは内緒だ｡
ほんの少しだけだし｡うん｡
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作者名：夢書き | 作成日時：2019年1月4日 10時
