使用人の独白 ページ39
「私は、大人になって気づいたのです、自分は必要とされていないのだと、自分が必要とされていない世界が、どれほど醜いものなのかと、家を追い出され、生きていくのもやっとで、数日に一度でも食事を口にできたのなら、幸せだとさえ思いました。
そんな時、ある噂を耳にしたのです。
森の奥の館で、たった一人使用人を必要としている、と。
その面接に向かい、あの館に着きました。
案内する人もおらず、使用人らしき人は一人もおらず、館の中に勝手に入らせてもらいました。
そこで、見つけたんです。
泣いているA様を。
驚きましたよ、まさか、あんな所で再会できると思いませんでしたから。
それに、彼女は泣いていたんですよ、あの時の希望に満ちた瞳は黒く澱み、まるで死んでいるかのように、地面に座り込んで。
でも、不覚にも、その姿でさえも美しいと思ってしまったんです。
あの日と同じ、硝子の靴を履いて、淡い色のドレスに身を包んでいたものですから。
それと、疑問に思ったんです。
彼女はどんな世界を見て、あの館で何を見たのだろうと。
それに、あの日と同じ服装をしているのはどうしてなのだろうと、あの夜に、あんなにも嫌だと言っていた硝子の靴を、履いているのは何故なのだろうと。
その疑問はすぐに解けました。
あの館の持ち主である、あのお二人が、面接官として私に聞いてきたんです。
庭で泣く彼女を見て、どう思ったか、と。
咄嗟に、綺麗だったと言えば、満足そうに、彼らは私を使用人として迎え入れました。
彼女は捕らえられたのだと、直感しました。
彼女は、私を覚えていてくれました。
だから、全てを話してくださったんです、あの夜に城を抜け出す前の、貴方との思い出も、主人達との出会いの話も、彼女自身の過去の話も。
直ぐに、彼女を助けなければと思いました。
同時に、彼女と交わした約束を果たす時が来たのだと思ったのです。
その好機を探る為に、必死に演じました、あの馬鹿みたいな狂人を、主人達に気に入られる、都合の良い使用人を。
……でも、駄目だったんです。
A様に、ここから抜け出しましょうとお話をしたら、怯えながら、震えた声で、それは許されないことだから、と。
私じゃ、彼女の手を引くのに頼りなさすぎるんです。
でも、彼女は貴方を待っている、今でも、まだ貴方に手を引かれるのを、夢見てるんです」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 345人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
馬鹿の者 - 奥様＝廃被り(シンデレラ)兎＝奥様の兄さんと、すると段々、小説の題名の意味が… (2020年7月31日 6時) (
レス) id: 37e79557bb (このIDを非表示/違反報告)
馬鹿の者 - おっふ、考察全部違ったけど、面白いから満足です。あ、皆様廃被り姫を知っていますか？廃被り姫とはシンデレラの事なんですよ、んでこの小説の題名にガラスの靴があるじゃないですか、シンデレラにもあるじゃないですか、もしかしてそれで表現してる？ (2020年7月31日 6時) (レス) id: 37e79557bb (このIDを非表示/違反報告)
ハット(プロフ) - どんどん謎が解けていく、、、！めちゃくちゃ面白いくて、更新が楽しみです(*^^*) (2020年7月28日 18時) (レス) id: c9cf6e7c0b (このIDを非表示/違反報告)
五千時(プロフ) - 馬鹿の者さん» 三度めまして！ここから徐々に真実を出していこうと思いますので、楽しんでいただけたら嬉しいです！ (2020年7月24日 13時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
馬鹿の者 - メイドの子も怪しくなってきたね、そもそもcnsypでみた幻覚って子供の頃の記憶なのかな？それなら、いやでもう〜ん分からん( ・∇・)(長文連投失礼しました) (2020年7月23日 2時) (レス) id: ee9fba9597 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：五千時 | 作成日時：2020年6月30日 3時
