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．予備の髪ゴムはいつでも右手首にひとつ。気合を入れる日には臙脂色のパーカーを羽織る。シャープペンの芯は0.5mmを、消しゴムは色移りが気にならない黒を。
自分の中の習慣がいかに重要な役割を担っているか、気づくのは得てしてそれを失ったときである。
「部屋でくらい我慢することなくね？」
殿内は両膝に埋もれた小さな頭をぐりぐりと掻き回した。先程彼女をものの見事に言い負かした少女は、勇ましくも今夜穴から学園を抜け出して友人の仇を取りに行く。教室から逃げ出した水樹はてっきり部屋で頬を濡らしているのかと思いきや、涙に濡れているのはその長い睫毛だけだった。
「置いてきちゃったんです」
「ん？」
「ぬいぐるみ。実家に」
綿のしぼんだくたくたのライオンには、10年分の感情が染み込んでいる。嬉しい日も悲しい日も抱いて布団に潜ったそれ。いつの間に、自分はあのふわふわ無しに泣いたり笑ったりできなくなっていたのだろう。
赤い目は確かに涙を溜めているが、薄く膜を張る程度でいくら瞬きをしてもこぼれ落ちることはない。抱え込んだ脚と胸の間にはぽっかりと隙間が空いている。
「新しいの買ってやろうか」
水樹は迷う間も無くかぶりを振った。執筆状態：続編あり(連載中)
．予備の髪ゴムはいつでも右手首にひとつ。気合を入れる日には臙脂色のパーカーを羽織る。シャープペンの芯は0.5mmを、消しゴムは色移りが気にならない黒を。自分の中の習慣がいかに重要な役割を担っているか、気づくのは得てしてそれを失ったときである。
「部屋でくらい我慢することなくね？」
殿内は両膝に埋もれた小さな頭をぐりぐりと掻き回した。先程彼女をものの見事に言い負かした少女は、勇ましくも今夜穴から学園を抜け出して友人の仇を取りに行く。教室から逃げ出した水樹はてっきり部屋で頬を濡らしているのかと思いきや、涙に濡れているのはその長い睫毛だけだった。
「置いてきちゃったんです」
「ん？」
「ぬいぐるみ。実家に」
綿のしぼんだくたくたのライオンには、10年分の感情が染み込んでいる。嬉しい日も悲しい日も抱いて布団に潜ったそれ。いつの間に、自分はあのふわふわ無しに泣いたり笑ったりできなくなっていたのだろう。
赤い目は確かに涙を溜めているが、薄く膜を張る程度でいくら瞬きをしてもこぼれ落ちることはない。抱え込んだ脚と胸の間にはぽっかりと隙間が空いている。
「新しいの買ってやろうか」
水樹は迷う間も無くかぶりを振った。執筆状態：続編あり(連載中)
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雪女 - 更新楽しみにしています (2022年1月28日 22時) (
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作者名：ぽるん | 作成日時：2021年4月29日 2時
