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そう言うと坂木は、困ったような笑顔でふるふると首を振った。
チクリと胸が痛んだが、それでももう一歩、踏み込む。
「坂木、俺は別に平気だよ。
教室でお前と・・・」
言葉の途中、坂木は手のひらを突きつける。
「NO！」と太字で書かれていそうな勢いだ。
『いいのです。
私には今のこの状況だけで、十分すぎるほど楽しいです』
『内山くんに迷惑がかかると、私も辛いです』
「・・・そっか、ならいいや」
にっこり笑ってみせると、坂木は心が満ち足りたように頷いた。
公園での会話は日に日に濃密になっている。
しかし教室での二人は未だ、知り合いですらないように振舞っている。
それはひとえに、坂木の意志だ。
クラスメイトの前で俺と会話すれば、俺すら奇異な目で見られると彼女は思っている。
それが嫌だから、教室で話しかけないようにと言って聞かなかった。
悩んだが、結局俺は彼女の望みを尊重することにした。
ただ心残りがあるとすれば、休み時間にどうでもいい話をしたり、一緒に弁当を食べる、そんな友達として当たり前のことが坂木とできないということ。
いずれそんな日が来ると、今はこっそり願うしかない。
休み時間、俺は教室での坂木を眺めていた。
黙々と、教科書を読んでいる。
彼女に触れようとする者は誰ひとりとしていない。
静かに、まるでいないように佇んでいる。
それがクラスメイトの、坂木への印象だろう。
でも俺は、この空間の中で俺だけは、本当の坂木を知っている。
この図式は、ちょっとだけ誇らしかった。
「なに見てるんだ」
突然掛けられた声に心臓が弾む。
景星だ。
「お、おお。
いや、ちょっと黄昏れてただけですけど・・・」
「なんで敬語なんだよ」
あぶないあぶない。
坂木を見ていたなんてバレたら、いろいろ面倒なことになる。
「ところで昂輝くんや」
すると今度は背後から、芽依がぬるっと登場する。
俺の頭を犬のようにぽんぽん叩き、あまり気持ちのよくない笑顔を浮かべていた。
「今景星と賭けをしてるんだけど、一緒にどうだい？」
「賭け？」
「あっ、こら芽依！」
俺の鸚鵡返しと景星の咎める声が重なる。
なにやらよからぬことらしい。
「昂輝の無遅刻無欠席が何日続くかって賭けなんだけど」
「安心しろ・・・これから未来永劫遅刻しないから」
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作者名：ゆん | 作成日時：2018年4月14日 23時
