【文スト】太宰治の奮闘記録

暗黙の了解 ページ22

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他愛も無い話をして数時間


あっという間に陽は落ちて、時刻は午後九時


がちゃりと鍵を開ける音が、同居人の帰宅を知らせる



「げ、もう帰ってきた」



玄関の、Aの靴を見たのだろう、どかどかとリビングに入場してきて第一声



「―――おい糞太宰！手前何時間かかって＿＿＿ 」

「中也おかえり！」

「あァ？」


危ない


辛うじて事が解決して、誤解からだが一歩前進したっていうのに

又拗れるような事をここで暴露してもらっては困る


何も云うなと、目で訴えた


伊達に相棒をしていないのだから、伝わるだろう



『あ、あの、お邪魔してます……』

「あ？ああ、つーか、何だ其の和やかな空気」

『へ？』



矢張りこうなる


不本意乍らこの間散々聞いてもらったからして、かくかくしかじかと事のあらましを説明する羽目に


聞いていたAは、恥ずかしい事相談しないで下さいよと


そして中也はというと



「へぇ、手前が太宰を苦戦させてる女か、普通だな」

『きょ、恐縮です…？』

「恐縮しないで、中也、髪の毛燃やすよ」



全く失礼な相棒である


Aの何処が普通だって云うんだ



「じゃァ何て云うのが正解なンだよ」

「よく見てよ、可愛い事この上無いだろう？」



云うと、たじろぐAをじーっと十秒程凝視して




「―――まァ、そうだな」

「燃やして犬の餌にするよ」

「面倒臭ぇな手前」


呆れ気味で台所へ行く中也が、「もう遅ぇからさっさと帰れよ」と、後手に手を振った


恰好つけてるつもりかもしれないが、余程疲れているのだろう、手袋が表裏逆だ



『えっと、私、帰りますね？』

「送るよ」

『二駅くらいなので大丈夫ですよ、それに太宰さん、外に出られないじゃないですか』



ああ、そんな事も云ったな


「もう大丈夫みたい」

『もう？』

「都合の佳い敵組織だよなァ」

「……黙っててくれる…」



良からぬ事を口走り兼ねない中也から逃げるように、Aの荷物を持って玄関へ向かう


怪訝に首を傾げ乍らついてくる彼女は、矢張り可愛い



「送り狼になンなよ」

「もう煩い！ならないよ！」



完全に、面白がられている


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