【文スト】素直じゃない兄【太宰】 (ページ17)

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１５.此処は何処かページ17

喉に刃が突き立てられた。

途端に襲ってくる痛みに、汗が浮き出る。

だが、はたと気付く。痛みは喉からではないことに。

何処が痛む？

突き立てられた刃を確認する為に喉元へ手をやるが、それは自分の頸に触れただけだった。

もう周りには誰も居ない。

傷口などない筈なのに、喉からは血が止めどなく溢れている。

一体何だったのだろう…あれは。

「兄さん？兄さん！」

不意に聞こえた声に反応する。

また偽者だろうか…今度は何だ。

警戒心を上げ、声の主を探す。

だが、どれだけ見回してもAの姿は見えない。

本来なら、見えなくて当然なのだ。此処は真っ暗な空間なのだから…

しかし、体がランプのように光っている為、姿のみ見える。

「姿を現し給えよ…今度は何をする心算だ」

此処は何処なのか…何故こんな処に居るのか…

全く判っていないところにこれだ。

自分から血が止めどなく溢れている。

実際、血は失われていない筈なのだが、くらりと目眩がする。

「兄さん！兄さんってば！」

ずっと声が聞こえる。

切羽詰まったような悲痛な声が…

この空間に響いている。

「君は…何処に…」

ふと視界に入った足先。

顔を上げると、其処には静かに私を見下ろすAの姿。

「私を認めて…私を見てよ、兄さん」

静かに、懇願するように口にした。

Aの腹には大きな何かが刺さっている。

その傷口から流れる血、口から零れている血…

全てに置いて痛々しいが、私は何も思わなかった。

こんな偽者なんかに云ったって、Aに伝わりはしない。

「認めて欲しければもっと頑張り給えよ。

現時点で認めて貰おうなんて、考えが浅はかだ。

君はもっと賢くなるべきだね」

……偽者にさえ云えないとは。

こうも気持ちとは裏腹の台詞がスラスラと出てくる。

きっとこれから先も、意識のあるAに優しく声を掛ける事など出来ないだろう。

済まない…傷付ける事しか出来ない私を許してくれ…。

こんな自分に嫌気が差し、目を伏せて思わず溜息を吐いた。

その時、目に入ってきたのは沈んでいく自分の膝だった。

地面に呑み込まれている…？

「何…だ、これは……？」

ずぶずぶと沈んでいく体をどうすることも出来ず、呑み込まれるままになる。

「くっ…どうにかして抜け出せないものか…」

ふとAに目をやると、涙が頬を伝っていた。

Aが静かに泣いていた。

其処で理解する。

此処は私の精神、心の中だ、と。