伍拾*堪らない ページ2
伏黒side
ガツンッと、斧が木にぶつかる音が響く。
家に戻った俺と実は今、庭に出て薪割りをしていた。と言っても、作業しているのは実だけだが。
「俺もやろうか…?」
『斧一本しか無ぇのにどうやって割るんだよ。呪具は貸さねぇからな』
この一点張りだ。お陰で俺は縁側で待機する羽目になっている。
それにしても…さっきから実を見てると腹が減ってくるんだが、俺は遂におかしくなったんだろうか?
「(喰いてぇ…)」
流れた汗を首にかけたタオルで拭く姿はとても色っぽい。今、あの火照った身体を食い荒らしたら…そう考えると涎が出そうになる。
少し尖った歯を舌で舐めると、不意に実が俺の方を向いた。
『……』
「どうした?」
『いや、何でもない』
そう言ってまた作業に戻る実。虫でも横切ったんだろきっと。
早く終わらねぇかな…。早く実を抱きしめたい。甘えたい。擦り寄りたい。行き場の無い手が気持ちに呼応して、ギュッと抱きしめるように握り締められる。
早く、早く終われ。早く。早く早く早く。
『ふぅ…』
暫くすると、実が斧を置いて一息ついた。薪の山を見て『これで終わりだな』と呟くのが聞こえる。
俺は我慢できずに立ち上がると、実に駆け寄って抱きついた。
『うぉっ!?』
「……」
石鹸のいい匂いがする。実は汗を掻いていても良い匂いがするんだな。
『お前…汗臭ぇだろ、退けって』
「嫌だ」
『嫌だじゃなくてだな…』
「絶対に嫌だ」
離すもんか。ギュッと力を込めると、実は観念したのかワシャリと俺の頭を撫でてくれた。
『せめて縁側に行かせろ。こちとらずっと立ちっぱなしで足痛いんだ』
「…!分かった」
一旦離れて手を繋ぐ。縁側まで移動すると、実は『よっと…』と縁側に腰掛けた。すかさず隣に座り、ぎゅっと抱きつく。
『赤ちゃんか』
「ん…」
何とでも言え。俺は今無性に甘えたいんだ。
グリグリと頭を押し付けると、実は俺を膝に寝転がせて頭を撫で始めた。優しい手つきが堪らなく心地よくて、目を瞑って堪能する。
……眠く、なってきたな。時折聞こえる声は、実の声か…?子守唄でも歌ってるのか…
「(……眠い…)」
そのまま、暗闇の中へ意識が沈んでいった。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年3月14日 15時