嘗ての自分へ、聞こえていますか?【モンド】 ページ29
滅びた国は戻らない。亡くしたものは帰って来ない。
嘗ての記憶は姿と共に消え失せ、この身は魔性へと堕ちた。
もう戻りはしない。嘗ての幸せは戻らない。
それでも今の自分には確かに、あの時のような大切なものが新しく掌の上に乗っていた。
モンドの穏やかな風が運んだ新たな縁。炎のように燃え盛る愛情と、氷のように静かに染み渡る愛情。
この二つは魔に変じた身体に愛を与え、僕を人へと戻してくれた。
【いつかは消える光だ】
気がついたら、僕の隣には"僕"が居た。
深淵の使徒として改造された炎と水を操るアビスの魔物。それが僕の姿。魔物としての僕。
【それでも大切なのか、この光が】
掌の上の光を見つめる彼は十字の浮かぶ赤い瞳を僕に向ける。
そんな彼に頷いて見せて、掌の中の光を優しく、大切に、壊さないように握った。
『例え置いて逝かれる運命だとしても、僕はこの光を大切にしたいんだ』
【握り潰せば砕け散る脆い縁だ】
『そうだろうね。人の身体になってもアビスの力からは逃げられない。僕がその気になればあっさりと消えてしまう光だろう』
でもね、この光が何とも愛おしいんだ。
『……君には分からないかな』
小さな事でも大袈裟に受け止めて慌てふためいたり、からかわれてむくれる僕を愛おしそうに見つめてきたり。
ちょっと過保護で、分かりにくくて、揃ったらピリピリと火花を散らすような2人だけど。
"君が好きだから心配なんだ"
"おいおい、そうむくれるなって。本当に可愛いヤツだな、お前は"
そんな2人が堪らなく好きで、そんな2人が居るこの世界は、とても色鮮やかに映るんだ。
【………私には分からないな】
彼が手を伸ばす。黒く鋭い指先は、僕の掌の上にある光に触れようとして、遠慮がちに引っ込められた。
【だが……守りたいと願う心は理解できる。私はお前だからな】
どこか寂しそうに、諦めたように微笑む彼。
『__君だってその1人だ』
僕は彼の手を取って、しっかりと彼の目を見据えた。
『安心してくれ』
使徒の黒い掌にも、きっと眩い光が宿るだろうから。
【………あぁ】
彼は驚いたように目を開いて、その後ほんの少しだけ嬉しそうに、静かに微笑んだ。
きっとこれからも僕は二人と過ごしていく。その命の光が消える時まで。
だからせめて、君達二人の最期を華やかで、幸せで、満足だったと笑えるようなものにする為に。
深淵にも負けぬ加護と祝福を。その人生に水の護りがあらんことを。
嘗ての自分へ、聞こえていますか?【璃月】→←新芽凍てつく冬の日に【スネージナヤ主人公】
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ゆらぎ(プロフ) - いえいえ、全然オーケーです!!こちらこそ採用してくださりありがとうございます! (5月5日 1時) (レス) id: 8914fbacd3 (このIDを非表示/違反報告)
九龍(プロフ) - ゆらぎさん» コメントありがとうございます!エヴァは私があまりよく知らない作品でして……申し訳ありません……。ですがシチュエーションはとても良いと思いましたので、そちらを採用させて頂きます!満足にリクエストに応えられず申し訳ありません! (5月4日 10時) (レス) id: 69e5a75295 (このIDを非表示/違反報告)
ゆらぎ(プロフ) - リクエスト受理してくれてありがとうございます!またリクエストでエヴァンゲリオンってできますか?エヴァに取り込まれた主人公組とパイロットの恋人組、みたいな、、?無理を承知ですがお願いします! (5月3日 19時) (レス) id: 8914fbacd3 (このIDを非表示/違反報告)
orchid~オーキッド~ - ありがとうございます!よろしくお願いいたします! (5月1日 13時) (レス) id: 47c56abe73 (このIDを非表示/違反報告)
九龍(プロフ) - orchid~オーキッド~さん» リクエストありがとうございます!話数的に次回に回ると思いますが、書かせて頂きます! (5月1日 1時) (レス) @page50 id: c0b6840b43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2024年3月8日 21時