散らばる星はその地で輝く -9-【短編集】

ようこそ、運命の人よ -1-【現パロ・モンド】 ページ17

ディルックside

いつからだったか、僕はこの世界で過ごす中、"画面越し"に此方を見ている"彼"の存在に気づいた。
どうやら僕の居る世界は作り物で、彼はそんな世界を探索する旅人を通してこの世界に干渉しているようだった。

彼は様々な人間を操る。旅人も、騎士団の人間も、そしてこの僕でさえ、彼の所有する"キャラクター"として扱われるみたいだった。
でも彼との旅は楽しかった。彼がアイテムを集め、僕の力を強くしてくれた。強い武器を集めて持たせてくれた。
いつの間にか僕は自分が思っていた以上の力を、彼のおかげで持つことが出来た。

それと同時に、僕は画面越しに僕を見て嬉しそうにする彼に、心を奪われていった。

名前も知らない。何もかもが謎の画面越しの君。僕は君を好きになってしまったみたいだ。
でも僕の声は届かない。決まった言葉を繰り返すだけのキャラクターだ。

どうしたら君に言葉を届けられる？どうしたら君に会える？
どうしたら、君は僕の元に来てくれるんだ？

「フラッド」

彼の名前。これは彼がこの世界で生きていく為につけた名前。僕はそれしか君の事を知らない。
知りたい。君をもっとよく知りたいんだ。その為には………嗚呼、そうだな。


この薄い画面を、取り払ってしまえばいいか。


「君は熱心だね。いつも欠かさず此処に来てくれる」

話しかければ彼は驚いた顔をする。あぁ、やっと僕の声が届いた。

「でも今日はデイリーなんてしなくていい」

画面に近づく。目の前に広がる見慣れない室内と驚き怯える彼の顔が近くにあって、間近で話しているような感覚になって嬉しかった。

「今日は君を迎えに来たんだ、フラッド。大丈夫、痛い思いはしないから」

手を伸ばす。指先が画面に触れた途端、とぷんと水の中に入るように画面をすり抜けて、

コントローラーを持つ彼の腕を、しっかりと掴んだ。


『…………、……あれ？』

彼が瞳を瞬かせる。ワイナリーの前、目の前に立つ藍色の髪の彼は、僕と同じ顔に不思議そうな表情を浮かべた。

「どうしたんだい？フラッド」
『…………ディルック？』

視線が交差する。ぱちりと紺色の瞳が瞬くと、彼はゆるりと微笑んで首を横に振った。

『いや、何でもない。少しぼうっとしてたみたいだ』

フラッドはそう言って僕の手を取り、『屋敷に戻ろう』と手を引っ張ってくる。


背後に見える無人の室内が映る画面は、ワイナリーの扉が閉まった事で見えなくなった。

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