《リクエスト》夜闇に紡ぐ言の葉-1-【アルハイゼン】 ページ28
アルマside
俺がこのスメールに生まれてから、それなりに時間が経ったと思う。
最初はただの草元素の塊だった。それから小さな奇跡が起きて、こうして俺として生まれてから、色んな事を体験してきた。
楽しい事も、嬉しい事も多く経験した。それと同じぐらい、辛く悲しい事も経験した。
それでも、俺の中で大事な記録として残っているんだ。
スメールシティを見下ろせる高い山の上で一人呟く。草木が揺れ、静かな葉の擦れる音を聞きながら、芝生の上に座って月を眺める。
今日はアルハイゼンにもカーヴェにも、知り合いの誰一人として声をかけぬまま此処に来た。少し……一人になりたかったから。
『……きっと探しているだろうな…』
せめて手紙の一つでも置いておくべきだった。だが今日は…少しだけ、ほんの少しだけ一人になりたかった。それだけを思ってしまって、何も考えずに来てしまった。
豊かな土地。緑茂るこの国はどこまでも澄んでいる。俺の中に巣食う汚点すら浄化してしまうような新緑は常に芽吹き、この大地を覆っていく。
その大地を見ていると、時折自分は本当に居て良いのかと…不安になった。
『……』
アルマ。そう名付けられた日、俺はとても嬉しかった。
沢山の知識を得た。沢山の経験を吸収した。きっと今の俺は彼にとって、最高の研究結果だろう。
『(君の努力は、報われただろうか)』
思い出すのは、フラスコの中に居る俺に必死に声を掛けて微笑む彼の顔だ。
彼の笑顔が好きだった。無邪気で、一生懸命で、何事にも手を抜かない。そんな笑顔が好きだった。だから俺は人に焦がれたのかもしれない。
くだらない話も、彼の声で語られると一級品の物語になったようで…
「アルマ」
振り向こうとすれば、そっと後ろから抱き締められた。
『アルハイゼン』
「心配した」
『……すまない』
彼の腕に手を添え、少しだけ身を委ねる。ただ黙って月を見上げていると、ふと思い出した。
『……月が、綺麗だな』
それは彼が教えてくれた、くだらない知識の一つだった。
「月より君の方が綺麗だが」
アルハイゼンはそう言って、訝しげに首を傾げた。
『……っはは』
「何がおかしいんだ。それより早く家に帰ろう。こんなに冷えてるじゃないか」
『あぁ…そうだな』
全く…。彼の前では本当にくだらない話のようだ。だが、そうか。
『(少なくとも、彼にとっての月は俺のようだよ。アシュー)』
持ってきた小さな花束をその場に置いて、彼と共に家に帰った。
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orchid〜オーキッド〜 - 最高です!かなり無茶なリクエストしたのにも関わらずクオリティ高いものを用意して頂いてありがとうございます!これからの活動もすっごく楽しみにしています! (12月11日 13時) (レス) id: 47c56abe73 (このIDを非表示/違反報告)
もにもち - ヤァバァイもう天才ですかあなたは!!天才ですね!!めっちゃうるっと来ましたよ〜!泣 はぁ!今日も頑張れそうです!更新ありがとうございます!これからも頑張ってください!!ずっと応援してます!あ、体調には気をつけて。 (12月11日 6時) (レス) @page44 id: 4864a15202 (このIDを非表示/違反報告)
orchid〜オーキッド〜 - 九龍さん» ありがとうございます!もし何か分からないことあったら教えてください! (12月10日 21時) (レス) id: 47c56abe73 (このIDを非表示/違反報告)
雷デット - ありがとうございます!! (12月10日 19時) (レス) id: d5e1296c27 (このIDを非表示/違反報告)
九龍(プロフ) - 雷デットさん» リクエストありがとうございます!書かせて頂きます〜! (12月10日 17時) (レス) id: c0b6840b43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年12月3日 22時