散らばる星はその地で輝く -5-【短編集】

炎は消える事無く【鍾離】 ページ15

劉斗side

「天を裂く巨大な槍は璃月の地を焼き、地表全てに息づく魔物をあっと言う間に消し飛ばす。雨霰のように降り注ぐ灼熱の槍は魔物の身を焦がし、大地を割り砕いて溶岩を溢れさせる。一夜にして地表全てを溶岩で覆い尽くしたその一戦は"一夜焦土の戦い"と呼ばれ、岩王帝君は＿＿」

『また脚色しているだろう』
「はは、そうかもしれないな」

ふん。これだから人間の伝記は……。
手にした湯呑みに口を付けながら呆れていると、ふと見えた鍾離の物憂げな表情が目についた。

『…どうした友よ』

何故そんな顔をする。

「…いいや、懐かしいものだと感じ入っていたまでだ」

そう言って鍾離は笑った。その顔はどこか、誰かを見ているようで。

『………そうか』

俺はそれが誰の事を想っているのか分かってしまって、すと視線を外した。

『(…憶えていたのならば、きっとあのような顔はさせなかったのだろう)』

もう憶えていない。彼との出会いも、その先の出来事も全て。
嘗ての仲間の顔も、己の行った事も、思い描いたものも、全部が消えていく。恐らくこうして憂いている記憶も消えるのだろう。俺を蝕む摩耗によって。

『……俺はお前の友になれているだろうか』

お前の愛した友は、お前の愛した"フォルファクス(俺)"は、きっと今のようなものではなく……


「劉斗」

温かい感触が手に触れる。俺の手に重ねられた鍾離の手からゆっくりと視線を上げると、穏やかな微笑みを浮かべた鍾離と目が合った。

「そんな顔をするな。俺はお前がこうして隣に居てくれる事が、何よりも嬉しいんだ」

彼の手が俺の手を撫でる。冷えた指先を温めるように、彼の体温が染みていく。

「例え過去の事を憶えていなくとも、お前はお前だ。劉斗」

………、……そうか…。

『…は、当然だ』

嘗て交わした約束も、何も憶えていない。それでも俺には今この世界で体験した記憶がある。
人間など嫌いだ。それでもどこか憎めない。そんな人々との思い出も悔しいが得難いもので、そしてお前との思い出も、忘れてはならないものとなっていく。


"フォルファクス様"
"帝君！"
"炎帝様"


「"フォルファクス"」


嘗ての俺よ、見ているだろうか？俺は今、平和な世を送ってるぞ。
隣の仏頂面は俺みたいによく笑うようになったんだ。俺は逆に仏頂面になったがな。

俺達を見守るように、嘗ての岩の魔神の影が二つ、手を繋いで璃月の地を見下ろす丘の先に立っている幻を見た。

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