呪箱異譚 (ページ39)

今日:5 hit、昨日:2 hit、合計:327,001 hit

参拾捌：それは突然にページ39

実side

酷く頭が冴えていた。痛みが走った瞬間、何かが切れたような感覚がした。

コトリバコの呪霊は、体内にある【玉手箱】の中に封印している。"呪力があれば何でも封印する"能力を持つ強力な箱に収まっている以上、俺がコトリバコの呪霊に意識を乗っ取られることはない。例えコトリバコの呪力だけを引き出すとしても、右手の指輪によって出力が制限されるから、コトリバコの封印を解くきっかけになることはない。
でも何故か、今の一瞬は自分が自分じゃないように感じた。これじゃまるで、

『(俺がコトリバコみたいだ)』

頭の片隅でそんな事を考えながら、立ち上がった伏黒を視野に入れる。瞬間、真後ろから飛んできた釘を足元から噴き出した泥を剣に変えて弾き飛ばした。

「っくそ！」
『二度同じ手には引っかからねぇよ』

そのまま剣を釘の形に変えて打ち込む。呪力を抑えた代わりに速度を速くした釘は釘崎が持つ金槌の柄に当たり、手から金槌を吹き飛ばした。

「っ！」
『金槌無きゃ何も出来ねぇだろ』

そこで大人しくしてな。

「榎森っ！」

今度は虎杖か…
虎杖はシンプルだ。目立った術式が無い代わりに、身体能力とそれにより生じる呪力のずれで勝負を仕掛けてくる。だったらこっちも正面で受けてやるよ。

『"泥真似"』

足元の泥から一振りの刀が出てくる。それを掴んで柄に手をかけると、拳に力を込めて加速する虎杖を視野に収めたまま抜刀の構えを取った。

「っらぁ！！」

呪力の拳が顔目掛けて突き出される。威力と速度が乗ったいい打撃だ。が、

「…っ！？」

もう少し速く動いてくれ。
背後に回り、チンッと音を立てて刀を鞘に納める。じわりと虎杖の服に赤い染みが広がると、胸、両腕、両足、そして腹から一斉に真っ赤な鮮血が噴き出した。

「がはっ…！」

血を吐いて虎杖が前に倒れる。と思いきや、虎杖はぐるりと俺の方に向き直って腹に拳が突き込まれた。

『っ…！？』

痛みと共に吐き気が込み上げ、胃液と共に血が吐き出される。コイツ、内臓やりやがった…！

「へへっ、当たった！」

ニッと笑うその顔に口角が上がる。コイツ…っ

『斬り刻んでやる…っ！』
「ボッコボコにしてやるよ！」