片恋のプレリュード【あんスタ・短編集】

そのビターを溶かして【2】 ページ13

「はい、これあげる」


頬に押し当てられたのは、温もりを帯びた缶のココアだった。


「迷ったけど、俺からちょっとしたハッピーバレンタインってことで」


今の今までハッピーとは程遠くて、凍っていた心。頬から伝わる温度と彼のふわりと纏った笑顔で、少し溶けた。


「⋯⋯ありがとう」


缶を開けて、甘さを口に含む。同時に隣でとさりと座る音がした。


ココアって、こんなに甘かったっけ。さっきまで苦い味を舌が占めていたからだろうか。

私に不似合いな甘さに、涙が出そうだ。


「それ⋯⋯」

「⋯⋯うん、渡せなかったチョコ」


遠慮がちに発せられた言葉を遮って、答えた。


「告白したけど、わたしのことは友達だって」


そっと、蓋をした箱を撫ぜる。


「もう少し可愛げがあって素直だったら、違ったのかなぁ」


こんな事、初対面の女に言われても困るだろうに。喋りすぎてしまったのは、彼の優しさに絆されてしまったのだろうか。


「ちゃんと告白したってだけで、勇気があって素直で可愛いと思うけどね」


えらいえらい、と軽く頭を撫でられる。
初めて言われた言葉に、不意に喉から熱いものが込み上げてきた。


「⋯⋯これ、あげる」


その優しさに返せる物が今の私には無くて、抱えきれなくなった箱を差し出す。
やっぱりどこかで、自分の手で捨てるなんて出来ないと思ったから。


「ありがと」


私の思いを汲み取ったのか否か、それは分からないけれど、彼は笑顔で受け取ってくれた。


おもむろに箱を開けだした彼に、少しばかり目を見張る。この場で食べられるとは考えていなかった。

脈が速まるのを感じながら、彼を見守る。

苦く、ないかな。



「美味しいよ」



その笑顔にまた心が溶かされて、氷が水となって目から溢れた。



「⋯⋯っ、──⋯⋯ありがとう」



思わず口をついて出た言葉に「何で君がお礼言うの〜」と可笑しそうに笑って、彼は私の頬に伝う滴を拭う。



だって、この苦みを受け入れてもらえたような気がしてしまったから。


私の淡い恋に終止符を打ってくれた貴方の笑顔が、やけに頭に焼き付いて離れなかった。





その日、どんな人にでも、どんな形でも幸せが降り注ぐように皆が口を揃えるのだろう。



Happy Valentine.



◇

遅刻ですが書きました。

アンデMVかっこよかった！ということで(？)書きました。でも曲とは全然違う話だしハッピーバレンタイン感が薄くてごめんなさい！ でも書けて満足！

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