片恋のプレリュード【あんスタ・短編集】

Lady killer【1】/朔間零 ページ25

※成年後のお話



◇

撮影を終えてひっそりとひとりで寄ったのは、行きつけのバーだった。静寂に佇むその場所は、落ち着いた雰囲気で特別気に入っている。


「あれ、朔間さん。貴方も仕事終わり？」


お疲れ様です、と挨拶をして彼の隣である空いたカウンター席に座る。


「ええ。Aさんも？」

「そうそう」


肯定すると、彼からもお疲れ様ですと挨拶を返される。店主に「いつものお願いね」とだけ注文をした。


このバーには足繁く通っているため、カウンター越しに店主と話すこともあった。確かその中で「この店に朔間零が来る」というのを世間話の中で耳にしたような気がする。
それはこの店主の口が軽いから聞き出した訳ではなく、その前に私がその彼と一緒に撮影をした、という話題を提示した流れだ。所謂、彼とは同業者というやつ。


とはいえ、ここで偶然会うということもなく。今までは孤独の余暇を楽しんでいたが、今日は一味違うようだ。


「いつもの、ということは。貴方はよくこちらに？」

「そう。仕事終わりにたまにね」


取り留めのない話をしていると、頼んでおいたものが届いた。小ぶりな器に入った飲み物は、仄かな照明でも輝きを放っている。ジャズの音色と相まって少し、幻想的。


「昔はカラオケとかだったんだけどなあ。もう若くないってことか」

「歌、お好きなんですか」

「まあ、好きか嫌いかと言われれば」


そこに、たまにこの店でも歌ってもらっていたんですよ、と店主が店の隅を指さす。ピアノとマイクが寂しそうに居座っていた。
最後に歌ったのは、いつだったか。仕事に忙殺されるようになってからは、もうあそこには立っていない。


「聴いてみたいです、Aさんの歌」


カラン、涼し気な音をたててグラスを傾ける彼の横顔は、嫌になる程絵になっていた。歳が近いなんて信じたくなくなってしまうほど。


「⋯⋯現役アイドルの前で歌うとか、嫌に決まってるでしょ」

「カクテル一杯でどうです？」

「ちょっと悩む」


酒を交えながらの会話は、距離も縮まる。ひとりで飲むのが好きだった私だが、彼は妙に落ち着く空気が漂うからだろうか。居心地は悪くなかった。

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