あの空の果てまで〈完結〉

落日　【Ki】 ページ19

トシと俺は双子の兄弟だ。

とはいえ二卵性だから、全然似ていない。

顔も性格も全然似ていない。

小さい頃から血の気が多くて友達や親ともすぐぶつかる俺と、穏やかでいつもにこにこしてるトシ。


好きな食べものも得意な科目も全然違った。

俺は肉が好きだけど、トシは魚が好きだし。

俺は国語と体育が得意だったけど、トシは日本史と化学が得意だった。


だけど似てないからと言って、仲が悪かったわけじゃない。

「ミツー！待ってー！」

「トシ、おせーよ」

一応生まれた順番で言えば、トシの方が兄になるのに、トシはいつも俺の後をついてきた。

逆上がりも九九も、なんでもできるようになるのは俺の方が早かった。

初めて彼女ができるのも。

「え！ミツ！もしかしてしたの？」

「したってなんだよ」

「……キス」

「そりゃすんだろ、なんならもっとすげーことしたけど」

「わああああ！ミツが大人になっちゃったー！」


だから。

本当に何の根拠もないけど、結婚も俺の方が先にするような気がしてた。


その頃社会人になった俺もトシも実家を出ていて、年末に久しぶりに帰ったら。

「ミツー！久しぶりじゃん」

そう言って笑うトシの隣に、見たことない女の人が座ってた。

「…おー、久しぶり」

「あ、俺の彼女のA。A、俺の双子の弟のミツ」


「初めまして。トシくんとお付き合いさせていただいてるAです」


そう言ってふわって笑うA。

「どーも、初めまして。宏光です」

「Aはさ、看護師さんなんだよ。救急でよくお世話になるんだけど働いてる時のAはめっちゃかっこいいの」

トシは救急救命士だ。

「へー…」

なんかふんわりした人だと思ったのに、ギャップ。

「ミツくんは？何のお仕事してるの？」

「ミツはね、テレビ局で働いてるんだよ」

「ええ！かっこいい！」

「いや別に。俺は営業だから。スポンサーに頭下げてばっかりで全然かっこよくないし」


「かっこいい、よ」


Aさんがそう言ってくれたのが、お世辞かもしれないけど嬉しかった。

母さんが、お茶と和菓子を出しながら笑う。


「トシ、肝心な話しなくていいの？」


肝心な話？

トシが膝を揃えて、背筋を伸ばす。



「ミツ、あのね。俺たち結婚するんだ」



たぶん。

俺はおめでとう、って笑ったはずだ。


トシとは女の子の好みも全然違ったのに。



なんでよりによって。





トシの結婚相手にひとめぼれなんてしたんだろう。

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す