人形の夢3 ページ9
長いこと経った。
未だに、シュヴァンツと私は売れ残ったまま。
因みにフウは先月引き取られていった。購入した四、五歳の女の子は、無邪気に喜んでいた。あの様子なら大切に扱ってくれるだろう。
取り置き、とのことだったので、その日の夜、私はフウへ伝えた。
『明日はあなたの誕生日よ。あなたはその家の子として生まれ変わるの』
いい子でいなさいね、とおでこに軽いキスをして、子守唄を歌ってあげた。
フウは、すぐに眠りについた。
「グリフ……」
隣でシュヴァンツが呟くのは、今日店を出て行ったワシのぬいぐるみの名前。元気の良い男の子に買われていった。
シュヴァンツは、グリフとかなり仲が良かった。ケンカもしょっちゅうしていたが、ケンカするほど仲が良い、を再現したような。とにかく、突然の別れがショックだったのだ。
(ところで……)
私は、ふと考える。
──もし私が誰かに買われていったら、彼は今日と同じように悲しんでくれるのかしら。
いけない、こんなこと。私は
私の気持ちは一生秘めておくつもりだったのに。どれだけ閉じ込めても、外に溢れ出てしまうみたい。
いつかやってくる別れが悲しくなるのなら、想いなど伝えないほうがいい。そう思って。
「シュヴァンツ、もう時間よ」
朝日が昇る前に、私たちは眠りにつく。正確には、動きを止める。
落ち込むシュヴァンツの気持ちも痛いほど理解できるが、それどころではない。
「あの子も、きっと幸せないはずよ」
「でも、連れて行ったのは男の子だった」
どうやら彼はそのことが気がかりらしい。それもそうだ、男の子に買われていった人形は、乱暴に扱われるという噂があったから。
「発信源もわからない噂よ、そんなの」
男の子が全員、物の扱いが悪いわけではない。
だから、何も心配することはない、のだ。
「でも、あの少年のリュックの中」
……? リュック?
私はシュヴァンツの言葉を待った。
「フウが……フウが、いたんだ」
「え」
──今、なんて言ったの?
──なんでフウの名前が?
私は彼のセリフを飲み込めなかった。否、頭では理解していたのだから、飲み込みたくなかったと言うべきか。
「で、でもなんで、だってフウは」
「──そう、俺も自分の目が信じられなかったよ。でも、確かにフウは」
続きを聞くまでもなかった。
私は、信じがたい事実を聞かされることとなった。
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葉月だんご(プロフ) - 麦カケさん» 感想ありがとうございます〜! 私も書いてるとき、主人公の正体をバラそうか隠そうか迷いました(笑) 今後の展開にもぜひ、ご期待ください(*´ω`*) (2020年12月30日 23時) (レス) id: 1261bb0f48 (このIDを非表示/違反報告)
麦カケ(プロフ) - 初めまして。人形達が持ち主だって気づいてない所がせつないです(でもそう言う設定好きです)これからどう言う展開になっていくのか気になります。無理せず作者様のペースで頑張ってください! (2020年12月30日 17時) (レス) id: ea0439ca7f (このIDを非表示/違反報告)
葉月だんご(プロフ) - 千々さん» コメントありがとうございます♪ お気に召していただけたようで何よりです! この感想を糧に引き続き更新がんばりますので、お付き合いいただけたら幸いです〜(*´艸`*) (2020年3月30日 17時) (レス) id: 3d624ae683 (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - オリジナルでいい作品を久しぶりに見つけられました! 人形たちの微笑ましい生活をこれからも見ていきたいと思います! (2020年3月15日 13時) (レス) id: df88b28f21 (このIDを非表示/違反報告)
だんご(プロフ) - ぐうたら猫さん» コメントありがとうございます〜! 気に入っていただけたようで何よりです♪ ネコのぬいぐるみってカワイイですよね← (2020年1月8日 2時) (レス) id: 3d624ae683 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉月だんご | 作成日時:2019年10月19日 12時