人形の街シュピール【オリジナル】

人形の夢２ ページ8

シュヴァンツ、私は悲しいわ。
　涙は出ないの。だってここは小さなおもちゃ屋さん。人形が涙を流したら皆びっくりするもの。
　それでも私は、この世界を嘆かずにはいられなかった。
　──なんでシュヴァンツは売れないの？
　──なんでシュヴァンツがこんなに辛い思いをしなくてはいけないの？
　誰もこの問いに答えてくれる者はいない。
　私は、彼がまだ見ぬ世界を待ち続けているのを、見ていられなかった。どうしても、自分に面影を重ねてしまう。そういう自分も売れ残りの流行遅れのぬいぐるみじゃないか。

「今日はもう、いいかな」

　外が暗くなり店主が戸締りをするのを見届けると、私は商品棚の陰から顔を覗かせた。
　誰もいない。

「いいわよ」

　私のサインを見た人形たちがわらわらと集まってくる。
　さて、今日は何して遊ぼうか。

「んー今日はだるまさんがころんだとか、どうかな？」

　シュヴァンツが提案する。
　彼は遊びだって真剣に取り組む。

「名案ね」

　子供たちも賛成したので、早速、鬼を決めることになった。
　ここは話し合いか。はたまた公平にジャンケンか。

「フウ、あんたおにやらない？」
「えーぼくつかまえるほうやりたい」

　それぞれが口々に言う中、

「私は、シュヴァンツが鬼がいいと思うわ」

　意見を出す。

「いいね！ シュヴァンツ兄さんならどんなてきでもみのがさないよ」
「やったー！」

　満場一致で鬼に決まったシュヴァンツは心なしか嬉しそうだ。
　──ずっとこんな日が続けばいいのに、と思う。
　おもちゃ屋は、日々変化していく。
　たとえば、フウが友達だと紹介してくれたカメのぬいぐるみ。今日の早朝、妹の誕生日プレゼント用に、と小さな包み紙にくるまれて、店を出て行った。もう戻ってくることはないだろう。
　ほかにも、たくさんの人形たちが姿を消した。
　いつ買われていくかわからない期待と不安を胸に、今ここでの時間を目いっぱい楽しんでいる人形たち。懐かしいな、私にもこんな時期があった。もう、いつしか待ちくたびれてしまったけど。
　シュヴァンツも、楽しんでいるのだろうか。
　今日は、いつも以上に彼のことが気になって仕方がない。
　生憎と胸中を読める能力を持ち合わせていない私は、シュヴァンツが何を思って、何を感じているのかわからない。だから、心配することしかできない。
　けれど、私は願っている。
　彼は望んでいないかもだけど。

　──この日々が、ずっと続きますように、と。

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