森の記憶3 ページ25
「そうじゃな……まず、『ドゥオールの迷子』についてどこまで知っておる?」
「はい……外の世界から迷い込んだ者……としか」
「そうか……」
カザーはもともと細い目を更に細め、ぼんやりと窓の外を見た。
そこには小さな実の付いた木があり、鳥たちの憩いの場となっている。
「……実はな、『ドゥオールの迷子』に意味なんてないんじゃ。この街の者は皆、外界から来た。すべての住人が、該当するんじゃ。ただ、この真理に気付いている者は数名、片手指で数えられるほどじゃな」
カザーのひづめでどう数えるかは不明だが。
この雰囲気でツッコめるほど私は図太くない。
『うん。珍しいけど、根本的なところは、変わらない。……一緒』
以前、アインスが言っていた言葉。
もしかしてアインスも“気付いてる”人形の一人かな?
「それでもわしらが自身を『迷子』と表現しない理由はわかるか? それは、シュピールが誕生したとき、わしらは既にこの街におったからじゃ」
「誕生?」
私は彼の言葉に違和感を覚えた。
そもそも街ってどうやって作られるんだっけ。
「この街はみんなで築いていったんじゃないんですか?」
あぁ、とカザーは首をゆっくり縦に振った。
動作がかなり慎重で遅い、先程は「まだ若い」なんて喚いていたが、やはり高齢なのだろうか。と、頭の片隅で考える。
「わしらには、生まれたとき──作られたとき──から意識がある。店に並べられたときも、わしを前に足を止める人間を数えきれないほど見てきた。もちろん、今の主の手に渡り、おもちゃ箱の中にしまわれたときもな」
カザーは遠い日の記憶を懐かしむように、両の手を擦り合わせた。
彼を含めたこの街の住人は、私がその“主”であることを知らない。
「わしらは、目の前で街が構成されるところを見たんじゃ。街が、何者かの力により少しずつ形作られてゆくところを、な」
「え」
「そして、声が聞こえたのじゃ。『あなたたちは、今日からこの街の住人として暮らしなさい。人形の街シュピールの、最初の住人として』……とな」
──それは、誰の。
なぜか、一人の人物が思い浮かぶ。
根拠もないのに、嫌な予感がして。
「──その言葉……さすがに一言一句一緒、とかありえないですよね……」
「ほ? わしを誰じゃと思っとる、この街一番の賢者じゃぞ?」
「そうですか」
私は脳内に浮かんだ彼女の声を思い出し、確信した。
彼女だ。
「私、行くところができました」
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葉月だんご(プロフ) - 麦カケさん» 感想ありがとうございます〜! 私も書いてるとき、主人公の正体をバラそうか隠そうか迷いました(笑) 今後の展開にもぜひ、ご期待ください(*´ω`*) (2020年12月30日 23時) (レス) id: 1261bb0f48 (このIDを非表示/違反報告)
麦カケ(プロフ) - 初めまして。人形達が持ち主だって気づいてない所がせつないです(でもそう言う設定好きです)これからどう言う展開になっていくのか気になります。無理せず作者様のペースで頑張ってください! (2020年12月30日 17時) (レス) id: ea0439ca7f (このIDを非表示/違反報告)
葉月だんご(プロフ) - 千々さん» コメントありがとうございます♪ お気に召していただけたようで何よりです! この感想を糧に引き続き更新がんばりますので、お付き合いいただけたら幸いです〜(*´艸`*) (2020年3月30日 17時) (レス) id: 3d624ae683 (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - オリジナルでいい作品を久しぶりに見つけられました! 人形たちの微笑ましい生活をこれからも見ていきたいと思います! (2020年3月15日 13時) (レス) id: df88b28f21 (このIDを非表示/違反報告)
だんご(プロフ) - ぐうたら猫さん» コメントありがとうございます〜! 気に入っていただけたようで何よりです♪ ネコのぬいぐるみってカワイイですよね← (2020年1月8日 2時) (レス) id: 3d624ae683 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉月だんご | 作成日時:2019年10月19日 12時