認知したい！【文スト】

かお合わせ ページ8

鏡花は子供を連れ、敦より先に寮を出た。日中は子供を探偵社に置くため、他の社員に説明と挨拶をして回るのだ。

道中、鏡花は子供に訊ねた。


「知らない人は不安？」


頷いた子供の手を取り、しっかりと繋ぐ。鏡花は眦を緩め、「大丈夫」と励ますように子供に言い聞かせた。


「優しくて良い人達ばかりだから」



□□□



──宮沢賢治の場合。(田舎暮らしの名残で早起き。朝日と共に目覚め、知り合いの畑を手伝ってから出勤)


「はい。昨日国木田さんから話は聞きました。お近づきの印にどうぞ！ 今朝採れたトマトです！」


──国木田独歩の場合。(予定通りに出勤。机周りの掃除をしていた)


「此方も早くお前の身元を……いや、お前が家に帰れるよう努めよう。……おい何を食っている。せめて座れ！」


──谷崎潤一郎の場合。(早すぎも遅すぎもしない時間帯に出勤。妹のナオミは学生のため不在)


「早くお家が見つかるといいね。でも何で国木田さんの椅子でトマト食べて……」


──与謝野晶子の場合。(二日酔いでやや遅めの出勤。頭痛が酷いらしく顔色が悪い)


「あァ昨日の……。ちょっとそこのコンビニでウコン買ってきてくれないかい。釣りは好きに使っていいから……」


──江戸川乱歩の場合。(遅刻をしたら社長に怒られるため、一応始業前に出勤。目を細めて子供を眺めた)


「ふーん。まあゆっくりしていけば。ねえねえ、そのビニール袋に入ってるのお菓子でしょ。新作のやつ！」


──福沢諭吉社長の場合。(鏡花と子供から菓子を徴収する乱歩を叱りつけ、国木田に太宰の所在を訊ねたところ、今日も奴は遅刻であると報告を受けた)


「乱歩がすまぬ。これで勘弁してやってくれ」


福沢から受け取った煮干の袋を開け、ふんふんと匂いを嗅いだ後に、子供は煮干を口に放り込んだ。


「奪う者あれば与える者あり……」

「此処に来て初めて喋ったぞ此奴」


子供は煮干を咀嚼しながら国木田を見上げた。もぐもぐと動く頬は鏡花につつかれる。それを凝視する福沢の顔を伺い見て谷崎は青ざめたが、乱歩は『社長、自分も触りたいとか思ってるんだろうな』と思う程度であった。



「もう馴染んでるなあ」


敦は離れた所からその光景を眺め、国木田から指示される前に太宰を探しに出かけた。

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