認知したい！【文スト】

そんな彼女は元マフィア ページ46

この生き方を選んだ事は後悔していない。ただ、その因果が子供の人生の障壁となってしまう事は申し訳なく思う。


「……私に色々して、考えてくれて、貴方は優しいな」


でもそれは皆に与えられるものじゃないんだろう、と呟いた子供の瞳に寂しげな色が翳る。


その通りだ、お前が唯一だ。芥川は口をついて出かけたその言葉を飲み込み、代わりに子供を抱き寄せて背中を撫でてやった。言ったら子供は悲しむのだろうと思ったので。子どもの体温ってやつは、どうしてこんなに高いのだろうか。


「あ！」


子供は突然声を上げて芥川の肩を押しのけ、慌てたようにスケッチブックや鉛筆を鞄の中にしまって立ち上がった。曰く、「もうすぐふれあい広場が開く」と。


「ふわふわの兎を抱っこできる場所だと鏡花が言っていた。芥川さん、早く行こう」


捲し立てる子供は先の事など忘れたように芥川の手を取って立たせた。芥川は暫く圧倒されたように立ち尽くしていたが、嬉しそうな子供の様子を見ているうちにどうでも良くなった。



□□□



珍しく服を汚さず濡らさず戻ってきたと思ったら、子供は行きには無かったぬいぐるみを持っていた。小さな白兎のぬいぐるみだ。なので、敦は「今日は何処に行っていたの」と訊ねた。


「今日？ 芥川さんに動物園連れて行ってもらったぞ」

「あく……！？ は？」

「可愛いぬいぐるみ……それもあの人が？」

「うん。買ってくれた」

「発信機とか埋め込まれてない？ 一寸太宰さんに見てもらおう」

「えっ、何するんだ敦。返してくれ」


その晩、太宰の元には腹が裂けたぬいぐるみを持った敦と、拗ねた顔で敦の脚にしがみつく子供が現れた。ぬいぐるみは太宰の部屋に転がっていた酒瓶からとって『亀吉』と名付けられた。裂けた腹は鏡花が繕った。


「ゆけ、仇討ちだ亀吉！ 敦の耳とか喰いちぎれ」

「亀吉を捕らえて毟った綿を味噌汁の出汁にしなさい夜叉白雪」

「怖過ぎる」


容赦なく夜叉白雪を出す鏡花、ぬいぐるみを庇って逃げ回る子供、ガタガタ揺れる木造の窓枠を見て敦は「発想が堅気じゃない」と先の鏡花の発言に思いを馳せた。


「工事現場より煩いぞ貴様等！！ 未成年しか居ないからと羽目を外すのもいい加減にしろ！ そして敦。貴様はこの部屋では最年長であると云う自覚を持て！」

「僕に言わないでください！」


ここ最近は毎晩怒鳴り込んでくる国木田である。昨夜は『空襲警報より喧しい』と云われた気がする。

お腹へってたから→←『幸福だ』とは言えないけど

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す